7レオルカの心中(1)
レオルカははっきり言ってエルディにべたぼれしている。
初めて彼女に会ったのはクワイエス侯爵家にお邪魔した時だった。
俺は騎士団に入っていてクワイエス侯爵は騎士団長をしていて俺は団長の執務を手伝っていた。
あの日は確か急ぎの書類を届けたと思う。
玄関を入るとアンリエッタ様と一緒に可愛い女の子がいた。
聞けば侯爵の弟が亡くなって侯爵家に引き取られたとか、まだ学園に通う前らしい彼女の名前はエルディ。
なんて可愛い名前だ。そんな事を思って自分がおかしくなったのかと思った。
だってそうだろう?俺は彼女とは9歳も年が離れているんだから。
でも、それから自分でもおかしいほどエルディが気になって仕方がなくなった。
それが恋だと知ったのはずいぶん後になってからだった。
とにかく学園に通うなら護衛騎士が必要だと分かっていたので自分がと名乗りを上げた。
騎士団でもエルディの存在を知っているものはほとんどいなくて俺はエルディの護衛騎士になれた。
真冬の凍てつくような寒々とした俺の人生に柔らかな春の日差しのような日々が訪れた。
彼女のうれしそうな顔やしかめ顔。困った顔も可愛くて俺は困った。
何しろ強面で通っているこの俺が双眸を崩すわけには行かないといつもぐっと唇を噛みしめて表情筋が緩まないように苦労した。
そしてエルディの婚約話が出たと聞いて俺は年甲斐もなくすぐに名乗りを上げた。
これは今までの人生の中で一番勇気のいる事だったかもしれない。
これまで真面目に騎士としての役目をはたしてきた事が良かったのか。
俺だって、まあ、娼館に入ったことはある。だが、女と付き合ったことはなかったのが心象が良かったのか。
俺は子爵家の次男だし婚約者も決まっていなかった事もラッキーだったのか。
俺はエルディの婚約者になった。
もう、夢じゃないかと何度も頬をつねった。
そしてエルディと正式に婚約が決まった。俺はすぐに婚約指輪を送った。
彼女の瞳の色に合わせたバイオレットサファイアと言う珍しい宝石だ。
これはエルディの故郷の鉱山で採れる希少な石だと聞いていたのでピッタリだと思った。
エルディはものすごく喜んでくれた。
少し値が張ったが俺の心は彼女の喜ぶ姿でものすごく満たされた。
彼女の事を考えるとひとりでににやにやしてしまう。この俺が?冷血動物じゃないかと言われるほどの俺がだ。
デートもお茶さえも誘っていない。だって俺はきっと顔がにやけてどうしようもなくなると思うからだ。
ほんとはエルディと演劇とか見に行ったり手を繋いで散策なんかしたい。でも、なんだか恥ずかしくて…
俺、確か28歳になったんだよな。こんなことが恥ずかしいなんて絶対誰にも言えないだろう。
もし騎士団のみんなに知られたら俺のイメージがた落ちだろうな。
絶対だめだ。
はぁ~エルディ、デートしよう。って言えたらな…
エルデイがルーズベリー教会で結婚式を挙げたがっていることはずっと前から知っていた。
当たり前だ。俺はエルディが学園に通っている頃からずっと一緒なんだ。
だからドミールからルーズベリー教会に空きが出た事を知ってすぐにエルディに知らせた。
あの時俺は急いで騎士団の事務室に帰って来た。でも、エルディには息を切らした姿を見せるわけには行かなかった。
俺は手洗い場で一度息が治まるまで待ってから事務室に入った。
案の定エルディは満面の笑みを浮かべてくれた。
俺は心の中でガッツポーズをした。
そしてついにルーズベリー教会での結婚式が決まった。
俺はすごくうれしかった。だって予定より早くエルディと結婚できるんだから。
ドレスはって聞いたらアンリエッタと一緒に頼んであると言った。
招待状やパーティーは叔母がやってくれるからと嬉しそうに話してくれた。
でも、アンリエッタと何だかうまく言ってないらしく少し寂しそうな顔をする事が増えた。
俺は心配でたまらなくてエリクにそれとなく聞いた。
「ああ、そのことか。アンリエッタもルーズベリー教会で結婚式が挙げたいらしい。まったく。女って言うのはどうしてあの教会にこだわるんだ?結婚式そのものが大事な事だろう?それなのに教会なんかどこでもいいじゃないか。なあ、レオルカもそう思うだろう?」
「いや、俺はエルディの希望をかなえてやりたいと思うが…それでアンリエッタは機嫌が悪いのか?おい、まさかエルディに当たったりしてないだろうな?」
「そんなわけないだろう?おいレオルカお前大丈夫か?エルディの事になるとお前なんかおかしくなるな?」
「ばか、そんなわけあるか!一応礼儀ってもんがあるだろう」
「まあな。俺はアンリエッタにべたぼれだから尻に敷かれようが言いなりになろうが構わないんだけどな。お前は違うもんな。ハハハ…」
危ない。危ない。