5ドレスが台無しに?
それっきりアンリエッタお姉様とは顔を合わさない日が続いた。
アンリエッタお姉さまは友達のお茶会や教会の慈善事業などで忙しくしているらしかった。
エルディはレオルカ様と結婚指輪を選びに行った。
好きな物を選んでいいと言われて悩みに悩んだ。
でもふたつの指輪を合わせるとハートの模様になる指輪にくぎ付けになってしまった。
レオルカ様にこんな指輪は似合わないとぐっとこらえたが、レオルカ様はこれがいいと言ってくれて結局その指輪に決めた。
すごくうれしかった。
数日後、ルンルン気分でエルディはドレスの試着に店を訪れた。
「まあ、エルディ様。今日はおひとりですか?」
いつもはアンリエッタお姉様と一緒に来るからだろう。
「ええ、あの、結婚式の日取りが決まって3月10日になったんです。それでドレスの試着をしておいた方がいいと思って」
「まあ、そうだったんですか。すぐに用意して参りますのでこちらでお待ち下さい」
店員は頭を下げて奥に入って行く。
エルディは出されたお茶を飲みながら、店の中を見る。
色とりどりのドレスにそれに会うバッグや宝石。靴も所狭しと並んでいる。
エルディはあのドレスに会う物はとあちこち視線を彷徨わせる。
レオルカからは婚約指輪としてダイアモンドの指輪を貰ったし結婚指輪も決めた。
後はドレスだけだとわくわくして待つ。
結婚式には母の形見の真珠のネックレスとイヤリングを付けようと決めていた。
母もこれをつけて結婚式を挙げたと聞いているからだ。
頼んでいたドレスはアイボリー色で上半身はすっきりと身体に沿ったラインで腰から下は幾重にもレースが重なったふんわりとしたデザインだ。
スカート部分にはあちこちに真珠が散りばめてあってとても美しいドレスだった。
(ああ…せっかくアンリエッタお姉様と一緒に選んだのに…こんなことになって何だか嫌だな。仲直りしたいのに、あれからお姉様と一度も会えてないんだもの)
大きなため息が出た。
「お待たせしました…あの、エルディ様…申し訳ございません」
いきなり店員が頭を下げた。その後ろからオーナーまでもが出て来て二人そろって頭を下げる。ふたりの顔色は真っ青だ。
「あの、どうされたんです?頭を上げて下さい」
「はい、実はきちんと保管していたはずのドレスが今確認しましたら…」
「ええ?これは…どうして…」
ドレスは縫い付けられていた真珠が引きちぎられスカート部分が引きつれている。よく見ると小さな穴が開いている部分もある。
「ひどい!一体誰が?…あっ!」
エルディの脳裏にアンリエッタの顔が浮かぶ。
(まさか…お姉さまが?結婚式を潰そうとしてドレスを…ひどいわ。こんな事するなんて許せない。でも、絶対結婚式は挙げるんだから!)
気持ちは一気に坂を転がるように下がったが腹が立って悔しくて泣きそうになった。
絶対にお姉様の思い通りなんかにさせたくなかった。
「先日確認した時にはこんな事にはなってはいなかったはずで…どうすれば…」
「仕方がありません。こうなったら既製品のドレスで間に合わせてもらえませんか?」
「いいんですか?結婚式ですよ?もし良ければもう一度仕立て直しも出来ますが」
「出来るんですか?」
「もし良ければ、一番上のスカートの部分の上にもう一枚レースを足すのがいかがでしょうか?中になるこちらの引きつれ部分には大粒の黒真珠を使えばお相手の方の色を纏う事にもなり黒真珠もレースで淡い色合いになり結婚式にもぴったりではないかと…」
「ええ、すごくいいです。今以上に良くなる気がします。では、それで間に合うようにお願いしますね」
「はい、もちろんでございます。では今から試着をしていただけばもう出来上がりを待つだけですので」
「そうね。お願いするわ」
エルディはだだ下がった気分もすっかり息をひそめて意気揚々とドレスを着た。
「サイズはこれで良さそうです。くれぐれも体型の変わることのないようお願いしますね」
「ええ、もちろんよ。ありがとう。ほんとに感謝します。くれぐれも他の人にドレスを見せたりしないで下さい」
「ええ、そうですね。私が責任をもって管理します。ご安心ください」
店のオーナーが胸を叩いて言ったのでエルディはやっと安心した。
こうやってエルディのドレス事件は難なく無事に終えることが出来た。
エルディはドレスの事はレオルカにしか話さなかった。
万が一アンリエッタお姉様の耳に入ったらまずいと思ったからだ。
(それにしてもこんな事するなんて…絶対お姉様の仕業よ。もう、絶対許さないんだから!)