18しばらく平穏な日が
それからしばらくは平穏な日が続いていた。
タウンハウスでは何の心配もなく叔母やアンリエッタと結婚式の話が出来るし、レオルカは毎日迎えに来て帰りは家まで送ってくれている。
特に変わった事もなく。いや、レオルカとの距離が縮まってすっかりふたりは仲のいい恋人同士になっていた。
馬車に乗ると毎日朝のキスに始まり昼はエルディお手製のお弁当を一緒に騎士団の食堂で食べ、帰りはレオルカが蕩けるような微笑みで事務室にエルディを迎えに来ると言う毎日で。
騎士団始まって以来と言うくらいお似合いのカップルが出来上がっていた。
そんなエルディにすこぶる機嫌よくなるレオルカだった。
キャサリンからもおかしな行動は受けていないし、そもそもキャサリンの姿さえ見なくなっていた。
ケネト殿下の話によると男爵家に帰っているらしかった。
脅迫状の犯人は見つかっていなかったがエルディはすっかり安心していた。
そしていよいよ結婚式まであと4日。3月7日になった。
それでもレオルカはもしもの事があってはと気を抜かないようにと毎日送り迎えをしているのだが、エルディは最近ではそれはただの口実ではないかとも思うようにさえなっていた。
それほど穏やかな日が続いていた。
明日はテネグロール国にあるラトビア教の神の生誕祭が行われる。
3月8日は国中の教会が生誕祭で盛り上がる。
もちろん王都にも人が溢れ店や屋台、宿屋などもにぎわう時期だった。
そのため毎年3月7日から3月9日の間はルーズベリー教会の結婚式は執り行われない事になっている。
騎士団も朝から忙しくしていた。
王都のあちこちの警備に回るように指示が出ている。
レオルカは小隊のみんなに声をかける。
「俺達は教会の警備になった。いいか。おかしな奴がいたらすぐに尋問していいからな。酔っ払いや子供にも気をつけろ。じゃあ、お前ら気を引き締めてな。行くぞ!」
エルディたち事務員も騎士達の出動に忙しかった。
レオルカは出がけにエルディにどこにも出るなと声をかけて出て行った。
その日も事務仕事は忙しくエルディもカーラもへとへとになった。
騎士たちの弁当の準備、それぞれの小隊への連絡や書類の整理などなど…
でも、明日は生誕祭で仕事は休みだ。
レオルカは仕事があるのでエルディはアンリエッタお姉様達と教会に行こうと話をしていた。
その日もレオルカは仕事の合間をぬって家までエルディを送り届けてくれた。
「レオルカ様、忙しいのにごめんなさい。でも、あれから何もないのよ。きっともう大丈夫よ」
「ああ、そうだといいんだが、何かあって後悔したくないんだ。結婚式の前日までは送り迎えをさせてほしい」
(と言うことは明後日一日だけね…)そう思うと少し寂しくなる。
エルディはふっと目を伏せる。
「エルディいやか?まあ、過保護かも知れない、心配のし過ぎかも…でも…「ううん。うれしいから。レオルカ様ありがとう。でもね。明日は休みだから残念だけど家族と教会に行くつもり。レオルカ様も一緒だといいんだけど…」
レオルカの心配そうなダークグレーの虹彩がぱぁっと華やぐ。
「ああ、でも、俺、教会の警護担当だから少しくらいなら抜け出せるかも。エルディ一緒に表の屋台くらい付き合うよ。そうだ、いつも昼ご飯作ってもらってるんだ。明日は俺が昼めしを奢るから、いいな」
「ええ、うれしい。じゃぁ、明日」
「ああ、じゃぁ俺は仕事に戻るから」
エルディにそっとキスをするとレオルカは帰って行った。