12何で気づいてやれなかった(レオルカ)
俺は最近元気のないエルディの事が気になっていた。
普通結婚をまじかに控えた恋人って言うのはもっと、ほら、なんて言うか。
恥ずかしさの中にも嬉しさがにじみ出るもんじゃないのだろうか。
俺はもう、うれしくって毎日大声で「俺は幸せだ~」なんて叫びたいくらいなんだが、エルディは違う。
決して俺を嫌ってるわけじゃないと思う。だってそうだろう、キスした時だってあんなにはにかんで嬉しそうにしていた。
嫌いだったら絶対そんな態度はとらないはずだ。
ドレスの事があってクワイエス家でうまくいってないのだろうか?
何だか元気がないのは…
でも、俺から図々しく聞くのもどうかと思っていたら…
「エルディ?何があった?頼む。俺に話てくれないか?」
その日騎士団に出向いて事務室に顔を出した。
俺の朝いちばんのルーティーン。朝一番にエルディのかわいい顔を見て仕事に取り掛かる。
もちろん俺のやる気を上げるためにだが。
そしたらエルディは瞼を腫らしていた。
もう、黙ってはいられない。きっと、何か辛い事があったんだ。もしかして俺との結婚が嫌になったとか?
胸に沸き上がる不安に首を激しく振って払い落とす。そしてエルディに声をかけた。
エルディの顔が一気に崩れ瞳が揺らいだ。涙が瞳を覆ってほろりとこぼれ落ちた。
「…エルディ」
俺はエルディに駆け寄って彼女を抱きしめた。
ぎゅっと温かい身体に触れると彼女は小刻みに震えていて、どうしてもっと早く彼女に問い詰めてでも話を聞かなかったと後悔が押し寄せた。
「エルディ、いいから全部話してくれ。何があったんだ?」
エルディは、くっと顔を上げて俺を見つめた。
眦に溜まった涙をそっと指先で拭いながらそっと頬を挟んで彼女に問いかけるように瞳を合わせる。
「いいから、俺に何でも言ってくれ…」心の声はだだ洩れていた。
「れおるかさま…今まで黙っていたけど…ドレスの嫌がらせの後にもブーケに黒い花を入れるように花屋に託をされてた。昨日は叔母様から言われたの。結婚式を取りやめる手紙が招待客に届いたって…私がそんな事するはずないのに…一体誰がそんな事をしたの?私達の結婚式を邪魔したい人がいるって事でしょう?でも、アンリエッタお姉様がそこまでするなんて信じられないし…そうかといって他に心当たりはないの。ねぇ、レオルカ様どうしたらいい?」
エルディの話は衝撃的だった。
実際、俺もエルディも子爵家の人間でほぼ一般人のようなもの。そんな俺達の結婚式を邪魔しても得をする奴もいないはずだ。
なのに?
「そんな事が?なぜもっと早く言わなかった」
「ごめんなさい。だって、お姉様だったらなんて思ったら言いにくかったし…でも、手紙を出すなんてそこまでお姉様がやるとはどうしても思えない。でも、もしそうなら、あんまりじゃない?私もうどうしていいのかわからなくなって…」
「ああ、俺もそう思う。でも、一体誰が?エルディそれで君が直接危害を加えられたとかはないのか?」
「そんな事は一度もないけど…凄く気味が悪いわ。結婚式ほんとに大丈夫かしら?」
「いいから心配するな…」
そう言って不安がるエルディをもう一度抱き締める。
エリクから聞いた話では、エルデイの言う通りアンリエッタがそんな事までするとも思えない。
とにかくエルディに心配するなって…
そう言えば…
俺の小隊には、ケネト第5王子がいる。
ケネト王子は我が国の5番目の王子になるが、なにしろ母は平民で国王が市井で働くのを見初めて側妃にして生まれた王子で、王家の他の兄達からしたら邪魔な存在だったがケネト王子にも問題があった。
王子はアンリエッタと同い年で15歳で婚約したが、学園で知り合った男爵令嬢に熱を上げてふたりは婚約を解消された。
その男爵令嬢が食わせ物で、アンリエッタにひどい扱いを受けたとケネト王子に言いつけて、あの時アンリエッタは学園の中であの噂でひどい目にあったんじゃなかったか?
その後ケネト王子は男爵令嬢キャサリンと婚約をしたはずで、まあ、そんな事があって王宮では邪魔者扱いにされていて騎士団に配属になったわけだが…
そう言えば結婚は…?
そうだ。キャサリンがルーズベリー教会で式を挙げたいと言っているから当分先になりそうだって話していたな。
この国では例え王族や貴族でも教会の決め事に口出しは出来ない事になっている。
教会も同じように王族や貴族に関することに口出しは出来ない。お互いの縄張りは邪魔しないとでもいうのか。
だから王族が結婚式をルーズベリー教会でやりたいからと言って勝手に日取りを決めるなんて出来ない。きちんと申し込んで予約をしてからじゃないと無理だからな。
あっ!
俺の中で嫌な考えが浮かび上がる。