10またなの?
それからしばらくは平穏な日が続いた。
ある日エルディがタウンハウスに帰ると叔母からブーケを決めてほしいと花屋から連絡があったと聞いた。
「ブーケはエルディの好きな物を選ぶべきよ。明日でもいいから行って来なさいよ。あっ、祭壇やチェアフラワーは私に任せて頂戴ね」
「はい、叔母様ありがとう。すごく楽しみです」
エルディはあれからアンリエッタお姉様とは仲直り出来たと思っていた。
ドレスの事は誰が犯人かもわからないので、これ以上考えるのは予想と決めていた。
翌日エルディは仕事終わりに花屋に寄った。
「すみません連絡いただいたエルディですが」子爵令嬢でなくなったエルディは身分で言えば平民となったので姓はない。
「お待ちしてました。先日そちらの使いの方が見えてブーケには伴侶となられる方の色を入れたいからとおっしゃったので…どうでしょう?」
花屋の店員が出来上がったブーケを見せた。
エルディの顔が強張る。
(えっ?何なのこの花は…どうして花嫁のブーケに黒い花が使ってあるの?)
「あの、どういう事でしょうか?黒い花って…」
「えっ?相手の方が黒い髪なので黒い花を入れてほしいと」
店員もエルディの様子を見て戸惑う。
「一体誰がそんな事を言ったんです!結婚式なんですよ。こ、こんな縁起の悪い黒を入れるはず…」
(まさか…アンリエッタお姉様が?)
ドレスの事もあって一番に脳裏に浮かんだのはお姉様だった。
「こんなブーケは困ります」
「ですが、お客様のご希望に合わせ召したので…それに黒い色にするにはかなりの技術が必要でして、インク液に白い花を入れて吸い上げさせるんです。それはもう薄くても濃すぎてもいけなくて繊細な作業でして…いえ、私どももどうなるかと思っておりましたが意外にもしろや赤が引き立ってとても斬新だと思いますが…」
店員は手間をかけた分このまま捨てられるのは惜しいと思ったのだろう。
「結構です。お金は払います。もう一度淡い色合いの花で作って下さい。それとこんな悪ふざけをしたのは誰か教えてください」
「少しお待ちください。今受けたものに聞いてみます」
店員は奥に入って行くとすぐに出て来た。
「申し訳ありません。忙しい時間でしたので顔までははっきりとは覚えておりません。ただ、クワイエス侯爵家の使いの者だと言って紙を渡されたそうです。これがその時のものです」
「見せて下さい」
エルディは店員からその紙を受け取る。
確かに(エルディの結婚式で使うブーケに相手の人の黒い髪色を入れてほしい)とはっきり書いてある。
(誰なの?こんな嫌がらせするなんてひどい!)
「この紙頂いても?」
「はい、エルディ様に確認すれば良かったですわ。申し訳ありません。では、ご希望に沿うようここで花を決めさせていただいてもよろしいですか?」
エルディはかなりイライラしていたが、店員にそう言われて気持ちを切り替える。
「はい、そうします」
そうやってエルディは薄紫色やピンク色、黄色やオレンジ色など赤系統の花色でブーケに使う花を決めた。
「そう言えば叔母様もここで結婚式のお花を頼んでるはずですよね?どんな花を使う予定かしら?」
「はい、それはもう大ぶりのバラやユリの花。カーネーションやスイトピーなども織り交ぜてそれは豪華なものです」
エルディはほっとする。
(叔母様がそんなひどい事をするはずがないのに…私ったら)
「そうですね。楽しみですわ。ではよろしくお願いします」
「はい、ありがとうございます。では、結婚式の前日にお届けしますのでよろしくお願いします」
エルディは取りあえず花屋を後にした。