士族の女子高生が旧暦対応のカレンダーを架けた理由
2枚目の星座の画像は、アホリアSS様よりお借りいたしました。
1枚目と3枚目の画像を生成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
私こと岩屋茉穂の勉強部屋には、天保暦を用いた旧暦仕様のカレンダーが架かっているの。
和風月名や六曜は勿論の事、古代中国の天文学で成立した東洋星座に基づく二十八宿や十二直もキッチリ完備されているんだ。
グレゴリオ暦が世界標準となった現代の女子高生の部屋に飾るには、ちょっと渋すぎる趣味かもしれないね。
どうして私が、旧暦のカレンダーを使う事になったのか。
それは先日に起きた或る苦い出来事に由来しているんだ。
全ての発端は、放課後を利用して堺伝匠館へ買い物に行った時の事だったの。
この堺伝匠館の売店では、堺県堺市の様々な地場製品が販売されているんだ。
昆布や地酒も良いけど、美しさと品質の良さに定評のある堺刃物を忘れちゃいけないよ。
今は包丁が主力商品となった堺刃物だけど、そのノウハウの原型となった日本刀や刀装具も変わらず販売されているんだ。
高校の同級生達はアクセサリーやコスメに熱を上げているけど、私の場合は自分の業物を飾る刀装具に夢中なの。
やっぱり私は、どこまで行っても士族の人間なんだね。
何しろ堺伝匠館に繋がる堺県堺市堺区の町家街を通る時から、もう胸が高鳴っていたからね。
だから刀装具のコーナーで新作を物色する時なんか、もう夢心地だったの。
「おっ!このオリオン座を彫った鍔なんて良いじゃない。だけど何か違うような…」
店員さんによると、鍔に彫られていたのは二十八宿の一つの参宿なんだって。
そもそも日本刀の鍔なんだから、西洋星座のオリオン座は不自然だよね。
「参宿がオリオン座に該当するなら、目貫も冬っぽいのを揃えようかな。あっ、玄武の目貫があるじゃない!」
何しろ玄武は冬を司る四神だから、冬に見えるオリオン座ともピッタリだよ。
そうして買い求めた真新しい刀装具を得意気に見せたんだけど、お母さんの反応は至って冷静だったの。
「茉穂、参宿は北方玄武じゃなくて西方白虎にあるのよ。」
「えっ…」
どうやら私はオリオン座が冬の星座である事に引っ張られ過ぎて、東洋星座の二十八宿や旧暦の事にまで注意が回らなかったみたいだね。
参宿と北方玄武じゃチグハグだし、さりとて白虎の目貫まで買い増しする余裕は無いし。
弱っちゃったなぁ…
そこで私は二十八宿や十二直も網羅された旧暦のカレンダーを調達して、この辺の知識を頭に叩き込む決意を固めたんだ。
たとえ転んでも、決して只では起きない。
それが士族である私の意地だよ。
白虎の目貫は惜しかったけど…