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第1話 ひととおり

 雨季の激しい雨が外で降る中、私は雨漏りしないように加工したパオ(モンゴルとかでよくあるテントみたいな家の事)の中で こっくりこっくりと船を漕いでいた。

私はつい昔のことを思い出す 癖がある。

悲喜こもごものとても激しい思い出だ。

 「う、ウーン……、おと、うさん、おかあさん……が、ハナビに……。あぁ、……」

 「おーっす、アイリ! 衛士の人が来てるぞ……、ってなんだー? 寝てるのかー?」

「わあっ、み、みんなが……、村のみんなが」

 私は誰かが入ってきたことに驚いて飛び起き、今みた夢を、ただいま現実に起きていることと取り違えて、大粒の涙を振り散らしながら寝ぼけまなこで 辺りを見回した。

「失礼します! インさま。……おや、イン様?」

薄くて軽い鉄板鎧をガチャガチャ言わせながら私がリーダーを務めている教会(と言っても異端宗派だけど)、の新人衛士が部屋に入ってきた。

「あー、あれだ。いつものトラウマ復活だな」

「トラウマ復活とはいったいなにごとですか?」

訝しむ新人君に、おーっすと言いながら最初に入ってきた人、私の恋人、レイヤくんはやれやれと目頭を抑えながら首を振った。

「新人の君は知らないか」

「といいますと?」

「この子はね、4つの文明国が領土を分けている隣の大陸からやってきた貴族たちに、『他人に危害を加えたら危ないから』という理由で〈駆除〉と称して親兄弟や近所の人を、それはそれはおぞましい方法で……、全員殺されたんだ。だいぶ前に聞いたことだけどひでえ話だろ?」

 まだ肝っ玉の据わっていない新人君は表情が一気に硬くなり、ごくりとほんのりと暖かい生唾を飲んだ。そんな 唾を飲んだことが 新人君は気持ち悪かったらしい。少し嫌そうな顔をしている。

「それは、とてもひどい話ですね」

だろう、と確かめるように、レイヤ君は新人君 に視線を送った。

「だ、だれ? こわいよ……! 私にまた、なにするの……?」

「しっかりしろ」

私は眼をしばたたかせた。だれ……、だれ……、えっと。

 ……わあ。レイヤくんだ。

「レイヤくんだ……。ふふ、おかえりなさい」

「相変わらず君はヤミかわいいな」

「えー。それ、ホメてるの?」

「短所もひっくるめたからこういう言い方になってるだけ。褒めてる、褒めてるよ」

「そのへらず唇を奪ってあげようかしら」

「いうねー。だけど、今日はお客さんがいるからまた後でね」

はーいとへそを曲げながら私は新人君を初めて見やる。

チラリ、と見て、すぐに興味をなくした。

私は人見知りの癖があって、これは昔からなかなか治らないくて困っている。特に物騒な格好をした人には無愛想になってしまうのだ。

「いいのか、こんな反応で」

「イン様に顔を覚えていただけるほど、まだ仕事してませんから」

新人君がさみしそうに頭の後ろに手をやって呟くと、私はおずおずと上目遣いに新人君の顔を見て謝った。

「ご、ごめんね?」

「いえいえ。大変でしょうから、ゆっくりなさっていてください。あ、そうそう。要件を忘れていました。今月の信者からの納金です」

お礼を言って受け取る。初めはいらないと言って断っていたけど、担ぎ上げられたからには仕方ないと思って現在は素直に受け取ることにしている。

それにしても、さっきからレイヤくんが不思議そうな顔して首をひねっている。

「どうしたの?」

尋ねると、レイヤくんは私の視線に気がついて、考え込むのを一旦やめて、気持ちを切り替えたいのか知らないけど、下履きの横を打ち払ってこんな事を言った。

「いやあ、改めてこの世界は不思議だなって思ってさ。僕も東洋思想を散々勉強してきたクチだからあえて言うんだけど、……さて、信じてくれるかなーってさ」

なんか、引っかかる言い方するなあ、と砂糖菓子を奥歯に詰まらせたみたいな気持ちになった。

「レイヤくんの世界の東側の考え方ってことね」

「そうそう。新人君も聞いてくれるか?」

その若い衛士は少し嫌な予感がしたのか、いくらかためらってから了承した。

「まず、この世界を作ったのは誰だ?」

「そ、そりゃ、創世神様でしょうに」

「でも、古来からの文献にも一切載っていないし、一部の経典にちらほら書いてあるだけだった」

ほんで、と区切って問を続ける。

「そもそも、だ。【俺たち、年取ってないじゃん?】」

「……あ、そういえば」

「てか、新人君。【お前、今まで生きてきた記憶、ないだろ?】」

「……バレましたか」

「やっぱりな。この世界は、中身、つまり神の欠片、言い換えると魂の入っている連中とそうじゃない連中がいる。で、万物の根源である神さんが成長しない限り、この世界は時が進まないんじゃないかって仮説を立てたんだが、どう思う?」

「それが本当だとして……、じゃあ、世界の中心とはどこなのでしょう」

新人君が首を傾げて難しい問いをかけた。

「神が見つめ続けている場所、その場所が世界の中心ってことになるな」

「うわー、よくわかんない」

「ですねえ」

「まあ待て。よく考えてみろ。創造神、つまり、創世神の力を最ももともとの形のまま一部分だけ引き継いだのが創造神イ・フィミルリャの真名と力だろ? あの力と名前を手にした方の神器は羽ペン形の剣と万物を生み出すインクなわけだ。つまり?」

「神は 物書きであらせられると?」

そうだ、とうなずくレイヤくん。

じゃあ何だろう? この世界は神様の心の成長のための世界だって言うんだろうか。

「ま、これ以上 深入りするとなんらか上位存在がちゃちゃ入れてきそうだからこの辺にしとこうぜ」

「世界の真実に触れて 消された 賢者はたくさんいるものね」

「恐ろしいことです。くわばらくわばら」

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