スカーフェイス
登場人物
鬼頭佑 (きどう・たすく)
元エクスキングダムの近衛兵。救世主エックスに救われるもエックスキングダムの幹部ゾウエクストルの襲撃を受けて死亡。以降、救世主エックスから「エックスファング」と「スカーアイ」を譲り受け新たなエックスとして戦いの運命に身を投じる。
エックス
かつてエックスキンダムの王「真王」を倒したエクスボーグ。王の座に就く事はなく世界各地を回り多くの力無き人々を救った。アダマスの実父。
アダマス
エックスの息子。インド象の力を持つエクステンドトルーパー、通称エクストルの戦士。天を衝くような巨漢。ストロンガーとアマゾンの中間のようなデザインの仮面ライダーアダマスに変身できる。「剛力(彩芽ではない)」と「雷帝」がパワーワード。
護道 聖
エクスキングダムの戦士。キングダムの幹部大僧正から重用されている神聖戦士でもある、太陽の化身ソルブレイズに変身する。三人目の事実上、三人目のエックス。デザインはアポロガイストのパクリだ。※今回は登場しません。
第一幕 ある英雄の死
パンチ一発で胸をぶち抜かれた。どう考えても即死だった。
俺を見下ろす冷厳な瞳。温情など欠片も持っちゃあいない。なぜならヤツは最初から俺を敵と思ってはいない。おそらくは路傍の石を除けたくらいしか思っていないだろう。
「何と言う事を…。アダム、お前には人の心が無いのか?」
ああ、駄目だ。せっかく俺が時間を稼いだというのにどうして逃げないんだ。俺は悔しくて悲しくて大粒の涙を流す。頼む、誰か彼を助けてくれ。彼が死んでしまえば世界は闇に閉ざされる。
彼はこの荒廃した世界の救世主なんだ。
「私をアダムと呼ぶな、老いぼれ。お前のアダムは既に死んだ。ここにいるのは鉄と血の意志を持つ一人の戦士だ」
鋼を溶かすような熱量を持った激情。男は初めて戦意を、憎悪を露わにした。
男アダマスにとって彼は唯一の汚点。名を捨て、過去を捨て理想の殉教者となる事を誓った今となっては消し去りたい過去でしかない。
「老いぼれ。お前の聖で我が王国、エクスキングダムは堕落した。その罪、万死に値する」
男は二本の剛腕を振るう。大気が裂けて電光が疾走った。
「剛力変身…ッ!」
その時、殺意が形と為った。
「世界は偽りの真理から解放された。いいか、老いぼれ、理解しろ。最強の者が支配する世界こそが正しく、美しい」
角を生やした巨人は高らかに宣言する。これから先に始まる混沌に満ちた世界の勝利者は俺のだとうそぶく。
「もっと早くお前に教えてやるべきだった。なぜか弱きものと強きものが、この世界に同居するのかを…」
老人は真実を正しく理解している為に涙を流す。先に死んだ若者も、目の前の巨人も真実を知らない。知らぬが故の暴走だった。
「せめて私がお前を殺してやる…」
「驕るな、老いぼれ!我が力は既に貴様を越えた!」
老人は戦史の姿に変身する。未来を導く為に、罪深き過去を清算する為に。
「青い閃光。最後の出陣か老いぼれ。何が救世主だ。お前は欠陥品だ」
「アダム、いやアダマス。お前を放置しておけば世界は滅びる。だから私はお前を倒す。お前の創造主としての最期の償いだ」
巨人は全身から電撃を放ち、剛腕を繰り出した。頭上を飾る歪な角に力が宿る。
「剛力雷帝粉砕拳!!」
大して戦士は腰のバックルに最後の力を集める。瞬きの間に消える光は悠久の時を照らす光となって敵に向かう。かくして憤怒と慈愛が正面からぶつかり合った。雷が光を食らい、また光は雷を焼き尽くす。巨人の方が目に見えて劣勢だった。
だがその時、戦士は思い出してしまった。巨人が赤子だった頃、その手に抱いた感触を。彼の笑顔を、共に過ごしたかけがえの無い日々を。
「情に絆されたか!!真の戦士に取って憐憫など屈辱以外の何物でもないというのに!!」
巨人の憎悪が荒ぶる。雷光は嵐と為りて光を飲み込む。
そして戦士は敗れた。心臓を貫かれ、フラフラと後退する。巨人は戦史の顔面に正拳を入れて止めをさした。
「待て、アダマス。行くな…。行かないでくれ」
「お前は老いた。力が全てだと俺に教えたのはお前だろうに」
「アダ、…マス…」
「さらばだ、親父殿。温い平和の夢でも見ながら死ね」
かくして決別の時を迎える。巨人は変身を解き、地上最強の改造人間たちの大軍団を連れて城塞へ帰った。後には二つの躯が残されるだけ。
「たすく…まだ意識はあるか?」
老人は這いずりながら男の死体に近寄った。死体は死体、何も答えてはくれない。だが老人は儚くも笑った。
「たすく、お前に全てを託す。勇者の証たる牙とベルトを…ごうっ!」
老人は吐血した。その表情に苦しみは無く、若者の前途を案ずる先達の慈しみがあるばかり。
「任せたぞ、新たな勇者よ。世界を破滅から救ってくれ」
老人は事切れた。例え他者が何と言おうとも後悔の多い人生だった。
最後の最後で縁を断たれてしまった。だが希望はある。故に老人は笑って死を受け入れた。やがて閃光は灯となり消え果る。それが世界に望まれた救世主Xの最後だった。
第二幕 新生
それから何日経ったのだろうか。俺は廃墟の中で眼を覚ました。手には砕かれた眼帯が、腰には彼のベルトが巻かれている。
「エックス!どこだ、エックスが!」
俺は力の限り叫ぶ。だが誰も答えてはくれない。そyか、死んでしまったのか。まず本能が彼の死を受け入れた。
やがて感情がそれを理解して俺に前へと進む活力を与える。俺の為すべきことは決まっている。ベルトがそれを俺の魂に刻む。
「エックス、お前との約束は必ず果たす。この地上にかつての繁栄をもたらすまで俺は戦い続けよう」
それから力が回復するまでの僅かな時間を俺はエックスの墓を作る為に費やした。
瓦礫から作った墓標を前に別れを告げる。
「全てが終わるまでここへは戻って来ない。じゃあな」
かくして男は旅立った。その男の名は鬼道佑。かつてはエックスキングダムの人間だったが今は違う。正義の守り手、Xとなったのだ。佑は気の赴くままに荒野を歩み出した。
その先に何があるのかは知らない。ただ今は何かしなければ自我を保っていられないという焦燥感に駆られていると言っても過言ではない。
道は遥かに遠く険しいだけだった。
第三幕 新世界
かくて世界は人類によって滅ぼされた。もう千年以上前の話だと誰もが知っている。
残された人類は英知の灯を消さぬためにも強くなる必要があった。心を鍛え、肉体を鍛えては武器を手に取る。薬物で、果ては医療技術を転用した人体改造で肉体の強化を図る。そうした末に生まれたのが最強の改造人間エクスボーグたちだった。
エクスボーグたちは集い、瞬く間に地上を支配した。やがてエクスボーグで最も強き者は王者を名乗る。エクスボーグの王は弱肉強食を絶対の掟とするエクスキングダムを作り上げる。被支配民たちは過酷な改造手術に耐えてエクスボーグとなるか、エクスボーグたちの奴隷と為るか、不要の者として殺されるかを選ばされた。
だがエクスキングダムの隆盛もそう長くは続かなかった。絶対不敗のエクスボーグの王が倒されたのである。かの者は王を名乗らずどこかに去ってしまった。それからエクスキングダムは荒廃し、支配者不在の混沌の世が始まった。しかし世界を支配する絶対の掟とは弱肉強食。やがて現れるであろう新たな王の存在を前に世界はわずかな静寂を取り戻していた。
第四幕 傷んだエックス
エクスキングダムが崩壊して以来、世界の各地でエクスボーグの暴走が始まった。
力あるエクスボーグたちはキングダムの支配を嫌い脱走し、平和に過ごす人間たちに容赦無き暴虐を繰り返す。そして今日ここでもエクスボーグが力無き者たちを虐げていた。
天は人を見捨てたのか?善に与する人々にはもはや生きる権利さえないのか?
この先は諸君らの目で確かめて欲しい。きっと諸君は混沌の世にも正義があるという事を知るだろう。
かつてエクスボーグの王を倒したエックスの意志は死んではいなかったのだ。
豹の頭を持つ改造人間、ジャガーエクストルは血に飢えていた。以前はエクスキングダムの下位組織によって特殊な鎮静剤を定期的に投与されていたが今は手持ちが無い。
牢獄を脱走する時に刑吏がしたり顔で自分をモルモット呼ばわりしていた理由を正しく理解した瞬間でもあった。
「ぐあああああッッ!!」
血が叫ぶ、血流が荒れ狂う。これが自由を求めて脱獄した報いだとでもいうのか?
ジャガーエクストルは血の涙を流していた。この街に流れ着いた時に自分を優しく迎え入れてくれた人々はもういない。この爪が、牙が命の灯を全て消し去ったのだ。
「ふう、ふう…」
匂う。まだ死んでいない命がある。肉を引き裂き、生きたまま貪り食らえばこの渇きが収まるのか。
ジャガーエクストルは藁にもすがる思いで匂いの元に向った。
「来るな、化け物」
見つけたのは老人と子供だった。老人は足が悪く逃げ遅れた事でジャガーエクストルに見つからなかったのだ。幸運か、もしくは不幸か。子供は老人を守ろうと棒切れを持って立ち塞がる。ジャガーエクストルにとって彼は見覚えのある存在だった。
そうだ。自分が荒野で倒れていた時に見つけてくれた命の恩人だ。
「がああああああッ!」
脳が焼けつくような衝動が五体に流れ込む。
逃げろ、逃げてくれという事さえ出来ない。この狂おしい衝動の前では理性など無力だ。
子供と老人は凍りついてしまったかのように身動き出来ない。ジャガーエクストルは嬉々として彼らに爪を振り下ろした。
バキンッ!
爪が触れる寸前に断ち切られた。視線の先には男が立っていた。口と手には鋼鉄の拘束具が嵌めてあった。目は太陽のように燦然と輝いている。戦士の瞳だった。
ジャガーエクストルはエクスボーグの本能から攻撃対象を変えた。
「理性を食われたか、憐れな」
戦士は憐れむような瞳で獣頭の戦士を見る。この数日間、彼を見張っていた。エクスボーグとしてではなく人間として生きるなら見逃すつもりだった。しかし運命は非常にも彼に自由も猶予も与えない。よりにもよって恩人を手にかけるという非情な選択を強いたのである。
「化け物、最後に言い残す事はあるか?」
ジュバアッ!
ジャガーエクストルは己の目を抉った。そして絞り出すような声で告げる。
「俺を殺してくれ。情けがあるならば俺の命を終わらせてくれ」
正しく末後の咆哮だった。戦士はコクリと頷く。
「ああ。この傷に誓ってお前の遺志は俺が果たそう」
戦士は全身に力を込めると拘束具がひとりでに外れた。そして上着にしまっておいた機械の部品が組み合わさって出来た眼帯を右目に装着する。
眼帯の中央は十文字に避けていて中からカメラアイが露出している。戦士は裂帛の気合と共に叫んだ。
「スカーアイ!!」
そしてベルトのサイドバックルから口マスクを取り出す。
「スカーファング!!」
ガチャッッ!!肉を食むが如くマスクは顔の下半分を覆った。最後に戦士はベルトのバックルに両手を当て歪な十字型の風車を回した。
「エクステンペスト!!」
風車が號と回る。轟轟と回る。歪な十字はやがてエックスの形と為り限りない力を放出した。
「スカーエックスッッ!!」
戦士の全身に全身に亀裂が走り、一瞬で力の命脈となった。頭部はフルフェイスの仮面となって敵を睥睨する。その面差しはカミキリムシのそれに似ていた。
「お前はエックス。救世主エックス!!」
ジャガーエクストルはかつての救世主エックスと同じ姿を持つエクスボーグに畏怖を抱く。
だが仮面の男は首を横に振った。
「違う。俺は彼の後継者。スカーエックスだ」
「同じ事だ、裏切り者がっ!」
音速の刃がスカーエックスに迫る。スカーエックスは斧と鎚が合体したような武器でジャガーエクストルの奇襲を見事に凌いだ。
「ぬぐああああっっ!!」
「エクスハーケン!!」
ジャガーエクストルの自慢の爪が一瞬で破壊された。だが腐ってもエクスキングダムの戦士。
破壊された爪はすぐに再生する。
「おおお…。なぜもっと早く現れなかった。後一日早くお前が現れれば俺はこんな事をせずとも済んだのに…」
「許せ。出来るならお前には一人の人間として生きて欲しかった」
「ぐああああああっ!!」
その時ジャガーエクストルの肉体に変化が起きる。胸の中央部分が隆起して内側から何かが露出していた。紅玉に似た大きな宝石。あれなるはエクスボーグたちの力の源、エクスジェム。かの魔の宝玉がスカーエクスに恐怖を抱き、最後の抵抗を試みたのだ。
ジャガーエクストルは一瞬でエクスジェムに精神を乗っ取られて本能のままにスカーエックスに襲いかかる。音速を超えた爪と牙の連撃にさしものスカーエックスも後退せざるを得ない。
「力には力を…。速さには速さを…。超音速の戦闘というものを教えてやるぞ!高速戦術マッハマキシマムッッ!」
スカーエックスは仮面の下で奥歯を噛み締めた。そのような機構が仕込まれているわけではないがこのルーティンをこなす事によりスカーエックスは肉体の速度の安全装置を外す事が出来る。スカーエックスは光に迫る速さでジャガーエクストルに接近して右腕をもぎ取った。
「ぬがああああああッ!」
ジャガーエクストルは血を流しながらも必死に逃げようとした。
「嫌だ、止めてくれ。スカーエックス。俺は死にたくない、死にたくないだけなんだ!見逃してくれ!」
「奪った命の報いを受けろ…。ミラージュエックス!」
スカーエックスは走るとかの超人の肉体は二つに分かれた。そして速度が増す度に分身の数が増えて行く。
ドッ!!ガッ!ガッ!ガガッ!
分身がジャガーエクストルの肉体を拳で貫いた。四方八方から攻撃を受けてジャガーエクストルはボロボロにされる。
「トドメだ!ランブリングスカーエックスキック!!」
スカーエックスが叫ぶとジャガーエクストルの身体を中心にして分身したエックスたちが一斉に飛び蹴りをしかける。
ズッ!ドッ!ドッ!ドッ!幾条もの蹴りに貫かれながらジャガーエクストルは爆散した。爆発の後、地面に転がるジャガーエクストルの頭部。意識が消え去る寸前にスカーエックスの顔が見えた。
「先に逝っていろ。俺も必ずあの世に行く…」
ジャガーエクストルは瞳に満ち足りた輝きを宿しながら息絶えた。スカーエックスは彼の頭部を持っていずこかへと消え去る。
これはほんの始まりにすぎない。やがてエクスボーグと人類の存亡をかけた戦いの序章にすぎなかった。
勢いで書いてみた。