No.007 マイラからみるセツキ
マイラ目線です!
「セツキ!」
詰所の中を歩いていると前方に目的の人を見つけた。
この国どころかこの大陸でも非常に珍しい黒髪の成年。背筋はピンと伸びていて背は高いが、寝癖なのかぴょこっとはねた髪の毛が可愛さを感じさせる。
セツキは振り返ると、人懐っこい笑顔を浮かべた。
私は《意思疎通》の魔導書を取り出して詠唱した。昨日セツキが兵士の詰所まで連行された時は本当に焦った。
「詰所に連れていかれたのを見て焦っちゃった。やっぱり兵士さん達の言葉が分からなかったのね」
「うぐ、その節は大変お世話になりました…」
「全く、私が気付かなかったら今頃どうなっていた事か。まあ、今回は力になれて良かったわ。」
「本当にありがとな」
苦笑を浮かべるセツキの顔は、苦が2割で笑が8割くらいある。こっちがどれだけ心配したか分かってるのかな...。
初対面であったとしても言葉を交わし、名前を知ってしまったら心配せずにはいられない。少なくとも私はそう思う。
あれ、そういえばセツキの持ち物って返却されたのかな。
「セツキが持ってた黒いアレ、没収されたの?」
「黒いアレ? あぁ、カメラのことか?」
「カメラ…っていうのね。聞いたことないわ」
『カメラ』という単語はどこかの地名か誰かの名前であった気がするけど、道具では聞いたことがない。
「写真が撮れるんだ。簡単に言うと目に映る風景や人物を一瞬で絵にうつすことができる…って感じかな?」
「そんなすごい道具なの!?」
シャシンという単語は恐らく私の知る写真と同義だと思う。ただ、写真をとれる道具というのはこの大陸に一つしかない。それも、魔法・魔道具の最先端である『魔法国家バンパス』が国家機密で作り上げたものだ。
仮にセツキの言葉が本当なら、あのカメラというのは非常に貴重かつ危険な価値を持つものになってしまう。
こんなに無警戒に話してるけど、まさか兵士さんにも同じことを...。
「それ、そのまま兵士さんに伝えたの?」
「いや。友人から買い取ったもので詳しい使い方は分からないって言っておいた。武器では無いことだけ説明したよ」
「そうなのね、よかった...」
兵士さんの中には嘘を見破る光神の加護を持っている人がいたはずだ。この国を守護する三神、『風神・緑神・光神』の加護を国民のほとんどが持っているからだ。セツキが自由に出歩いていることから、何らかの方法でカメラのことを誤魔化すことに成功したのだろう。そうじゃなければ今頃尋問されていたかもしれない。
「そんなすごいもの聞いたことないよ。セツキって何者なの...?」
聞いたこともない、というのは誇張かもしれないがバンパスの持つカメラとセツキの持つカメラは似ているだけの別物だろう。
そんな物を持っているセツキって一体何者なんだろう。
じっと目が合い、無言の時間が続く。何故かすごく見られている気がする。いや、見定められているのかも...。ごくりと喉を鳴らしながら、恐る恐るセツキの名を呼ぶ。
「セツキ?」
「んぁ、ごめんごめん。見惚れてたよ」
「んなっ」
一気に顔が赤くなる。ボンッと音が出そうなほど。
幼い頃からお世辞などはよく言われたけど、こんなにストレートに言われたのは初めてだ。もしかしてセツキって私のこと好きなの!?
告白とかされちゃうのかな!? まだ心の準備が!!
「ははっ、マイラは面白いな」
「か、からかったの!?」
人懐っこい犬みたいな人かと思ったら人のことからかって遊んだり...。コロコロと表情を変えるのは見ていて楽しい気持ちになる。
そういえばなんの話をしていたんだっけ?―――上手く誤魔化された...!?
「マイラはこの後どうするんだ?」
「もう...。私はこの自由都市ツイツの冒険者ギルドで冒険者になるつもり」
「マイラも冒険者に?」
「うん。自由に冒険していろいろなことを知りたいの」
幼い頃からの夢ではない。けど、家を飛び出して世界を旅したい私は冒険者に夢と希望を感じている。
「マイラさん」
「はい!?」
瞬きした瞬間、セツキが目の前にいた。
そのまま流れるように膝をつき、下から見上げしっかりと見つめられる。まるでお姫様に忠誠を誓う騎士のように。
まさか本当に告白されるの!?
ぎゅっと目を瞑り、次に続く言葉を待った。
「俺と一緒に冒険者になってくれませんか!」
「あ、え...?」
え、冒険者...?
「俺と一緒に冒険者に――――」
「聞こえてるよ!?」
「聞こえてたのか。ん、なした?顔赤くない?」
「っ、なんでもない!」
バッと手を振り払い離れる。告白されるかもと思った自分が恥ずかしい。
だいたい、男の人に手を握られたのは家族以外では初めてだ。照れるなという方が難しい。
「セツキってなんかこう、心の距離をぐいぐい詰めてくるね...。それでいて不快感がないのもすごい...」
「仲良くなりたい人にはぐいぐい行かないと後で後悔するからな!」
仲良くなりたい、か。友人と呼べる友人がいなかった私としてはとても嬉しい言葉だ。
しかし何故かセツキの目はどんどんハイライトを失っていく。
「すごく悲しそうな目をしてるよセツキ」
「気にしないでくれ。それより冒険者の件、どう...?」
膝を地面から離し立ち上がるセツキ。パンパンとズボンを手で払い、私の目を見る。
彼にはしばらく通訳が必要だろう。それに私としても男の人が近くにいるのは心強い。ナンパとか怖いしね。
ただ、セツキのことをよく知らないのも事実。
私が悩んでいると、徐々にセツキが泣きそうな目をし始めた。本気で泣くわけではないだろうけど、本当に感情が分かりやすい。まあ、彼なら変なことはしてこないよね。でも、やっぱり少し怖いのも事実だし、とりあえず一週間だけにしとこう。
「そんな泣きそうな目で見つめられたら断れないからっ。とりあえず明日から一週間だけね!それ以降のことは一週間後に!」
こうして私は暫定パートナーをゲットしたのであった。
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