No.006
最近寒くなってきましたね!
先ほど確認したらブックマーク登録されててめちゃめちゃテンション上がってます。ありがとうございます...!!!
「セツキ!」
兵士さん達から解放され、廊下を歩いていると後ろから声をかけられた。まるで穏やかな風のように心地良さを感じさせるこの声の主は、桃色の美少女マイラだろう。
振り向けばやはり、にこやかな笑みを浮かべたマイラが居た。
マイラはスっと《意思疎通》の魔導書を取り出すと、歌うように詠唱した。そのまま愛くるしい顔を器用に動かし少し苦笑した。
「詰所に連れていかれたのを見て焦っちゃった。やっぱり兵士さん達の言葉が分からなかったのね」
「うぐ、その節は大変お世話になりました…」
「全く、私が気付かなかったら今頃どうなっていた事か。まあ、今回は力になれて良かったわ。」
「本当にありがとな」
お礼を言いつつ、思わず頭をポンポンと撫でそうになる。動きかけた右手を理性で押さえつけて、なんとか引き止めることに成功した。
それは別に俺が普段から女の子の頭を撫でている訳ではなく、なんとなく妹のきよりと雰囲気が似ていたからかもしれない。
「セツキが持ってた黒いアレ、没収されたの?」
俺の右腕を見ながら、マイラが尋ねる。
「黒いアレ? あぁ、カメラのことか?」
「カメラ…っていうのね。聞いたことないわ」
人差し指を顎に当て、少し首を傾げる。普通の子がやればあざとい仕草だが、マイラだとあざとさを全く感じない。むしろ尊い。
一瞬見惚れながらも、気を取り直してカメラについて説明する。
「写真が撮れるんだ。簡単に言うと目に映る風景や人物を一瞬で絵にうつすことができる…って感じかな?」
「そんなすごい道具なの!?」
目を大きく開いてびっくりしつつ、瞬時に何かを考えている様子のマイラ。もしこの世界にカメラの様なものがなければ、あのカメラの有用性や貴重性は国宝級になってもおかしくない。恐らくマイラはカメラの価値について考えているのだろう。
ついつい無警戒に話してしまったが、何故かマイラなら話しても大丈夫なように思えた。
「それ、そのまま兵士さんに伝えたの?」
「いや。友人から買い取ったもので詳しい使い方は分からないって言っておいた。武器では無いことだけ説明したよ」
「そうなのね、よかった...」
兵士さんに嘘をつくとバレそうだったから苦しい言い訳になってしまった。たくさんの機能があるあのカメラを使いこなせている訳ではないから、詳しい使い方が分からないのは本当だ。嘘はついてないはず。バレてないよな...?
「そんなすごいもの聞いたことないよ。セツキって何者なの...?」
マイラが桃色の瞳でじーっと俺を見つめる。可愛いすぎる。別に惚れているわけではないが、アイドルとかの推しを見るときの気持ちに近いだろう。
にしても本当に可愛いな。グラデーションがかった髪の毛って地毛なのかな。まつげも長いし、ぱっちりおめめ――――。
「セツキ?」
「んぁ、ごめんごめん。見惚れてたよ」
「んなっ」
一気に顔が赤くなるマイラ。アニメであれば間違いなくボンッって感じの効果音がつくだろうな。
あまりにも褒められ慣れていない様子を少し意外に思いながらも、その慌てようが妙に面白い。からかいたくなる。
「ははっ、マイラは面白いな」
「か、からかったの!?」
真剣に見つめてくるかと思えば急に赤くなって、次の瞬間にはわなわなと震える。こんなにコロコロと表情を変える人はそうそういない。
そういえばなんの話をしていたんだっけ?―――まあいっか。
「マイラはこの後どうするんだ?」
「もう...。私はこの自由都市ツイツの冒険者ギルドで冒険者になるつもり」
「マイラも冒険者に?」
「うん。自由に冒険していろいろなことを知りたいの」
そう告げるマイラの目はキラキラと輝いている。冒険者に夢と希望を感じているのだろう。
でもそうか、マイラも冒険者になるのか。言い方は悪いけど、これは俺にとって都合が良い。通訳がいなければ冒険者どころか日常生活を送ることさえままならないし、何よりも美少女と一緒にいられるのは男として嬉しい!
そうなれば頼むことはただ一つ。
「マイラさん」
「はい!?」
きっとS級冒険者でも驚くであろう速度でマイラに近づいた俺はサッとその手を取る。
そのまま流れるように膝をつき、下から見上げしっかりと見つめた。まるでお姫様に忠誠を誓う騎士のように。
ちなみに高校の演劇でやった動きだ。騎士役が思ったより楽しかった記憶がある。と、そんなことはどうでもよくて。
「俺と一緒に冒険者になってくれませんか!」
「あ、え...?」
ん?聞こえなかったかな。
「俺と一緒に冒険者に――――」
「聞こえてるよ!?」
「聞こえてたのか。ん、なした?顔赤くない?」
「っ、なんでもない!」
バッと手を振り払い離れるマイラ。その頬は少し赤い。
男になれていないのか、それとも俺に惚れたのか。理由は分からないが、まず間違いなく後者ではないだろう。
「セツキってなんかこう、心の距離をぐいぐい詰めてくるね...。それでいて不快感がないのもすごい...」
「仲良くなりたい人にはぐいぐい行かないと後で後悔するからな!」
ソースは中学の俺。好きな子に一回も声を掛けられずに三年目を迎え、気付いたらその子に彼氏ができてた。恋愛にしろ友情にしろ同じ過ちはもう二度と犯さない。
「すごく悲しそうな目をしてるよセツキ」
「気にしないでくれ。それより冒険者の件、どう...?」
膝を地面から離し立ち上がる。パンパンとズボンを手で払い、マイラの目を見る。
もし断られたら通販で段ボールを買ってその中に入ろう。いい人が拾ってくれると良いな...。
マイラはしばらく考えるそぶりを見せ、俺の目を見た。
「そんな泣きそうな目で見つめられたら断れないからっ。とりあえず明日から一週間だけね!それ以降のことは一週間後に!」
こうして俺は暫定ではあるが最高の相棒をゲットしたのであった。
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前書きでも言いましたが、初ブックマークありがとうございます!