No.005
「───、スミマセン? ───。スミマセン…」
目の前の桃色美少女は頭にハテナを浮かべながら「スミマセン」について考えているようだった。
先程のおじさんと違い、俺とコミュニケーションを取ろうとしてくれている。もう少し話しかけてみるか!
「俺、名前、セツキ。キミ、名前、なに?」
「───?」
少女も理解しようとしてくれているが、全く伝わらない。
すると少女が自分を指さして「マイラ」と言い、その次に俺を指さして首を傾げた。
どうやらコミュニケーションは取れていなかったものの、考えていたことは同じだったようだ。
俺は少女を指さして「マイラ」、次に自分を指さして「セツキ」と言った。
「セツキ!」
マイラと名乗ったその少女はとても嬉しそうな笑顔を見せ、その直後に何やら本のような物を取り出した。
その本を片手に持ち、もう片方の手を俺に向けた。直後、マイラを中心に何やら良く分からない違和感が発生し、同時に彼女が何か呪文のような物を唱え始めた。
「───、──セツキ────!」
コメントでは『魔法か!?』『もはや現実としか思えない』『感動してきた…』とマイラ登場に次ぐ大盛り上がりだが、これが攻撃魔法だとは思わんのかこいつらは。攻撃魔法だったら為す術なくやられるんだぞ。
俺には防御手段も無いし、そこはもう目の前の愛らしい少女が出会い頭に攻撃してくるような野蛮な少女では無いことを祈るしかない。
次の瞬間、ふわっという感覚が俺を包み、続いて俺とマイラの間に何か繋がりが出来たような感じがした。
「あの、言葉わかるかな?」
「おお!? 分かる!なんで!?」
俺が食い気味に詰め寄ったからか、マイラは少し驚きつつもゆっくりと解説してくれた。
どうやらマイラが使ったのは本当に魔法で、しかも高価な魔導書を使うことで行使できる魔法らしい。魔導書は使い切りという訳ではなく、魔力と技術があれば誰でも何度でも使えるものらしい。
「いま私が使ったのは《意思疎通》の魔導書。《意思疎通》は高度な知能がある生物同士で、お互いの名前を知っていると少しだけ意志の疎通ができるようになるの」
なるほどな…。だから名前を知った途端にコミュニケーションがとれるようになったのか。
「ん? 少しだけ意志の疎通ができる…? 完璧に出来てるけど…?」
「えと、その、それはまた別の魔法で…。そっちは秘密! ごめんなさい!」
あわあわしながら頭を下げるマイラ。美少女は何をしても可愛いというが、どうやら本当だったらしい。めっちゃ可愛い。
user:『隠す必要がある魔法って、固有魔法とかレアな魔法ってことか? 実はこの子が有名人で、特定されたくないとか?』
user:『たしかにそうかもな』
user:『単純に使っちゃいけない薬とかで魔導書をブーストしてるのかも』
なにやら憶測が飛び交っているが、とりあえずコミュニケーションが取れたということが大切なのだ。
「いや、気にしないで。こうやってコミュニケーションが取れただけでも────」
「────!」
俺がマイラと会話を続けようとしていた所に、兵士から声が掛かった。どうやら俺の番らしい。
「ごめん、呼ばれたらしいから行ってくる!」
「あ、うん。───呼ばれた、らしい…?もしかして───」
別れ際にマイラが何か言っていたようだが、兵士に怒られたくないので急ぐことにした。
◇
しまった。そうだった。今、俺は門の近くにある兵士の詰所に居る。
目の前には鋭い目付きでこちらを睨みつけている兵士さんが3人。
ちなみにカメラは没収された。最初にカメラを兵士に向けた時に武器だと思われたらしく、すごい勢いで剣を向けられた。ちびるかと思った。…ちびってないよな?後で確認しなきゃ…。
没収されるのを察して配信を終わらせたため、かなり雑な終わり方になってしまった。
なぜ兵士さんたちが俺を睨みつけているのか、答えは簡単だ。見慣れない服装、突然向けられた武器らしきもの、通じない言語。俺が兵士さんでも睨み付けるね。なんなら縛り付ける。
縛られていないだけこの兵士さんたちは優しい。
「───!」
「Oh…」
「──────、─────!」
「───?」
「─────!」
「どうしよう、何言ってるか分かんない」
マイラと会話が成立したことで浮かれて、つい他の人とも会話ができる気になっていた。俺のIQ2くらいしか無さそう、サボテンと同レベル。
兵士さんに呼ばれてから15分は経過しただろうか。兵士さんが質問し、俺が答えられないという状況がエンドレスに続いていた。
兵士さん達が困り果ててきたので、そろそろどうにかしたい。
そう思ってると、詰所のドアがノックされた。
ギィ…という音を響かせながら木の扉が開くと、そこには1人の兵士と桃色の美少女がいた。
「マイラ!」
「───、セツキ!」
どうやら先程の魔法の効果が切れているらしく、言葉が分からない。しかし、コミュニケーションができる相手が来てくれたのはとても心強い。
マイラは詰所の兵士さん達に1度頭を下げると《意思疎通》の魔導書を取り出した。そしてそれを兵士の1人に渡した。
「────」
「─────!」
兵士がマイラに頭を下げると、気にしないでくださいというようにマイラが手を振る。どうやら魔導書を貸しているようだ。
兵士が本を開き、手のひらをこちらに向けた。そのまま呪文を唱え、俺の名前を呼ぶ。
再び感じる違和感のような感覚を覚えつつも、素直に魔法を受け入れる。
「コトバ、ワカルカ?」
「おお!カタコトだけど分かる!」
「ソウカ、ヨカッタ。オレ、ナマエ、マイケル・イェーツ」
マイケル・イェーツと名乗ったガタイのいい兵士さん。頬に傷跡があり、正直とても怖い。
「オマエ、ドコ、キタ」
お前はどこから来たのか、ということだろうか。異世界から来たと素直に言うのは少し怖い。嘘をつかない程度に誤魔化そう。
「分からない。気が付いたらここに居た。多分、凄く遠いところから転移させられた」
転移魔法というものがあるかは分からないが、嘘を見破る魔法とかがあるとまずいので嘘はつかずに本当のことを言う。
マイケルが隣の兵士を人目見ると、隣の兵士が頷いた。もしかして嘘かどうかを判断する手段が本当にあるのかもしれない。嘘つかなくて良かった…。
「マリョクサイガイ、マヨイビト。カネ、アルノカ?」
「魔力災害、迷い人…? えぇと、お金はあるけど、多分ここでは使えない」
「ソウカ。スコシ、ホゴ、デキル。ミッカカン。ソノアイダニ、ボウケンシャ、ナレ」
おぉ、3日間までなら兵士が保護してくれるのか。その間に冒険者になって、お金を稼げってことだな。
「オマエ、ミモト、アヤシイ。ボウケンシャ、ホカ、ナレナイ」
「身元不明でも冒険者ならなれるのか。だから冒険者なのね。分かった、ありがとう」
「コノアト、ココ、ネロ。メシ、ダス。アシタ、ギルド、イケ」
ギルドってのはおそらく冒険者ギルドのことだろう。《インターネット》で時間を確認すると午後5時過ぎ、日本とは違い日が暮れれば寝ることになるだろう。そう考えれば今からギルドに行くのは少し遅い。
「わかった、そうするよ」
俺がそう頷くと、マイケルは人の良さそうな笑顔を浮かべた。案外良い奴なのかもしれない。見た目は怖いけど。
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モチベに直結します!