No.004
ヒロイン登場!
安く売ってもらったカメラ(ジンバルもセット)を《インターネット》に接続。Utubeを起動してLIVEを開始する。
「これで皆に見えるかな?」
ジンバルの取手を持ち、辺りを撮影する。撮影した動画はリアルタイムでUtubeにて配信されている。コメント欄などは《インターネット》で確認できる。
カメラ売り:『初見です!カメラ売りです!』
さっそくカメラを売ってくれた人が配信に来てくれたようだ。カメラ売りさんのコメントが視界の隅に表示されている。
「こんにちは〜、セツキです! 今は説明した通り異世界で遭難中です!」
user:『お、ほんとにやってる』
ヒロト:『ちわーす』
user:『ここまで凝ってるとなんかちょっと信じたくなる』
user:『わかる、夢あるよな』
ヒロト:『え、名前設定してるの俺とカメラ売りだけか?』
user:『ネット社会は怖いんやで、匿名しか勝たん』
などなど、思ったよりも人が来ている。現在の同時接続視聴者数は13人だ。初めてにしては多いのでは無いだろうか。
配信はそのままに、カメラと視線を遠くに見えるとある物に向ける。
「やっぱあれ、壁だよな?」
そこには天高くそびえ立つ…、とまではいかないが、5メートルくらいはありそうな壁が視界いっぱいに円形に広がっていた。
user:『やっぱアニメとは違うな』
user:『思ってたより低いな』
ヒロト:『でも横幅はすげぇよ』
user:『巨人いそう』
最後のやつ黙れな?
壁の中に入るための入口は見当たらないが、道を歩いていけばたどり着けるはずだ。
「じゃあ、この道を辿って壁の中行っちゃいます!」
user:『おぉー!』
user:『(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク』
user:『上から弓で…!!』
user:『こわ。』
歩き出し、壁に近づくにつれてコメントも盛り上がっていく。
ジンバルのおかげで画面酔いする人も居ないようだ。頭につけるタイプのカメラの方が便利だろうが、贅沢は言わない。
「この道を歩いていけば街に入るための入口があると思うんだけどな…」
道の先を目で追っていくと、遠くに人だかりが見えた。どうやらそこには門があり、兵士が並んでいる人たちを調べているようだ。入国審査のようなものだろうか。
カメラ売り:『初異世界人!』
user:『あれ、持ってるの剣だよな? ガチで異世界なんか…』
user:『これがCGだったとしても普通に面白い』
コメントも盛り上がっていて、ワクワクしているのが俺だけじゃない事がわかる。
そうこうしているうちに、とうとう門の前の人の列に辿り着いてしまった。
中世ヨーロッパ風の格好をした人々が1列に並んでいて、その先には剣を持ち鎧を来た兵士が数人いる。
「すごいな…!本当に異世界だ!」
門の先に見える街並みはとても綺麗で、明らかに現代日本とは別物だった。高層ビルなどは無く、地面もコンクリートではない。だが、アニメやゲームでよく見る異世界の街並みだった。
user:『前に並んでる人に話しかけてみろよ!』
カメラ売り:『おお!初コンタクト!』
コメントを見ると、話しかけてみてという意見が多かったため勇気をだして話しかけて見ることにする。
狙いは俺の前に並んでいる、背は高いが特に特徴の無い外人のような見た目のおじさんだ。
まずはそのおじさんの肩をたたく。
「こんにちは、少しお話いいですか?」
緊張しつつ、期待と不安の混ざった俺の問いかけに対して、そのおじさんは驚いた顔でこう答えた。
「─? ──────。」
「…え?」
「…─?」
何を隠そう。俺の異世界人との初コミュニケーションは、完全なる失敗だった。
user:『今の何語だよwww』
user:『相手めちゃくちゃビックリしてたぞ笑』
カメラ売り:『今の言語、英語でも中国語でもないですね。誰か知ってる人いますか?』
user:『ギリシャ語でもないな』
ヒロト:『俺は日本語じゃないことしか分からなかったぜ』
◇
あの後は気まずい沈黙が流れ、しばらくして前の人が兵士に呼ばれた。気が付いたら列は無くなっており、俺と前のおじさんだけになっていたのだ。
「これ、やばいよなぁ。言葉分かんないのは詰んだか…?」
user:『おつ』
user:『わんちゃんカメラも取り上げられるよな』
user:『確かに見た目ごついし武器だと思われるかも…』
コメントに助けを求めようとしたが、事態が悪化するという予想しか書かれていなかった。
「んんん…。まあ、なるようになるか!どうせここに助け求めるしか無いし!」
とりあえず「なんとかなる」の精神で乗り切ることにする。こらそこ、思考放棄とか言うな。
チラッと前を見るとさっきのおじさんが荷物の検査を受けていた。手持ち無沙汰な兵士たちが俺を怪しげに睨んでいる。正直とても怖い。
兵士の視線に耐えきれず、逃げようと後ろを見る。
「おおっ…!?」
「──?」
「あっ、すっ……。」
そこにはいつの間にか人が居て、俺が驚いたことでその人を驚かせてしまった。
言葉は伝わらないと知りつつ、謝ろうとその人の顔を見て────息を呑んだ。
身長は俺より30センチほど低い。俺が175センチだから、だいたい145センチだろうか。パステルカラー、淡いピンク色の髪の毛を肩の少し下辺りまで伸ばしている。その髪もよく見ると毛先に進むにつれて色が明るくなっていて、綺麗なグラデーションだ。
「───?」
下から見上げるように、少し心配そうにこちらを覗き込む少女。
パッチリとした二重に透き通る桃色の両目。ウェーブが掛かった髪の毛で輪郭が分かりにくいが、それでもとても小顔であることが分かる。
user:『え、やば』
user:『なんこれ尊い』
user:『おいやめろよ、この子がセツキのヒロインとかまじでやめろよ?』
カメラ売り:『天使?』
user:『あっ、すっ……ってwwwwww』
ヒロト:『コミュ障かよ!…俺も変な声出た。』
コメントが爆盛り上がりな中、何とか俺が捻り出した言葉は…。
「す、すみません…」
とんでもなく情けない謝罪だった。
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