No.001 異世界転移
ここから物語スタートです!
「ん?」
気が付くと、だだっぴろい草原に居た。ゆったりとした昼下がりのようで、このまま昼寝したら最高だろうなと思える。
降り注ぐ陽の光が目を優しく刺激し、暖かい風が身体を撫でていく。その風もとても澄んだ空気だ。「空気が美味しい」と生まれて初めて思った。
「気持ちいいな...」
こんな清々しい気持ちなのに、俺の心臓は早鐘となって胸を突き続けている。
それも無理ないよな?
なぜなら俺は、さっきまで真冬の北海道に居たのだから。
それが気付けばこんな穏やかな、どことも知れない謎の草原だ。ラノベで有名な異世界転移だとしても、もう少し説明があるのではないだろうか。けれど、辺りを見渡しても神様なり王様なりの姿は欠けらも無い。
とりあえず、状況の把握をしよう。まずは記憶の確認だ。
俺の名前は中川雪希。北海道札幌市に住んでいる大学1年生。両親が早くに交通事故で他界、それ以来は妹と2人暮らしだ。世話をしてくれた隣のお婆さんにはいくら感謝してもしきれない。
「記憶は大丈夫そうだな…。思考も五感もハッキリしてるし夢でも無さそうだ」
まずは近くの街を探そう。街じゃなくても、集落とか村とかでもいい。とにかく人が居てくれればいい。
人が居ない世界である場合の事はとりあえず考えないことにする。その方が精神的に優しい。
「にしても本当にただの草原だな…。遠くに山とか森は見えるけど道が見当たらないなぁ」
ボーッと突っ立っていても仕方ない。驚きや困惑はあるが、とりあえず歩くことにする。森とは逆方向に。
「昼間とはいえ森に入るのは危なそうだし、歩いてれば道が見つかるかも」
まだまだ太陽(?)の位置は高い。急に暗くなることはないだろうが、その前に落ち着いて休める場所を見つけなければいけない。ラノベとかならそろそろお姫様の悲鳴が聞こえてきてもいい頃ではないだろうか。いや、不謹慎な考えは辞めよう。
「ん、ラノベと言えば…。ステータスオープン!」
異世界物のラノベやアニメでは必須のステータス!俺も地球出身だし、何かしらのチートがあるかもしれない。
が、しかし。
待てど暮らせどステータスがオープンしない。この世界にはステータスを確認したりする手段が無いのだろうか。そうなるとこの時点でスキルをポンポンとって無双する未来が失われたのか!?
そもそもスキルとか無いのか…?
「いや、そうだよな…。あんなゲームみたいなシステムがある方が異常だよな…。分かってた、分かってたけど…」
こうなってくると、いよいよやばい。
今までは異世界に少しワクワクドキドキもしていたのだが、スキルもステータスも確認できないとなると不安しかない。この世界の現地人に比べて俺の身体能力が凄まじく高い可能性も無くはないが、地球にいた頃と対して変わった様子もない。もしこれで身体能力が凄まじいとなると、現地人は全員ふらふらの老人並になってしまう。
「どうする…。スマホも食料もないぞ。着てる服は防御力も耐寒性能もない灰色のスウェット上下。詰んでる…」
というかスマホあったとしても《インターネット》無かったら意味無いやん!ただのカメラとか電卓とかライトにしかならんやん!…って意外と便利か!
ジジッ…──────────ヴォン。
心の中でスマホについて語っていると、目の前で変な音がした。慌てて視線を音の方向に向けると、そこには薄く半透明の画面のようなものが出ていた。
そこにあった画面は、毎日よく見ていたあの画面にそっくりだった。─────大学生になり、講義で使うために奮発して買った自分のPCの画面に。
◇
一通り出てきた画面を弄ってみて分かったことは以下の通りだ。
一つ、インターネットと念じると出てくる。
一つ、タッチでも意思でも操作可能。
一つ、俺のPCに入っていたソフトやデータがそのままある。
そして「地球のインターネットに繋がっている」という点だ。
日付を確認したところ2月18日となっていて、俺が地球にいた日から3日ほど経っていた。
3日間俺がどこに居たのかは謎だが考えても仕方ない。
まずはRAINで妹に連絡をとる。俺の無事を伝える旨のメッセージを送ったが、昼間であることもあり既読はつかなかった。後で返事来るかな?
後は仲のいい友達…といっても一人しかいないのだが、そいつにも連絡しといた。
「大学とかはまあ、いっか。めんどいし。緊急事態緊急事態。あ、そだ、掲示板でどうすりゃいいか書き込んでみよう」
掲示板サイトを開き、【異世界なう。助けて。】という簡素なスレを作る。今までの経緯と現在の状況を書き込み、とりあえず放置しておく。
あと他に使えそうなものは…、ん?
俺がよく使うサイトの中にネット通販がある。そこを開いてみる。バイト代等も電子マネーで割と貯まっており、買い物は基本ネット通販で済ませていた。
「おお、開ける。食料とか買えたりすんのかな?」
買えるかどうか試す為に、手頃なパンを選択する。カゴに入れて購入に進む。支払い方法は現金では無く電子マネーで住所は…『現在地』ってのがあるからそこにしておく。
「えいっ、購入!」
来るわけないと思いつつ、ボタンを押す。特に効果音も無く、無事に購入が完了した。
「…流石になにも起こらな「シュバッ」…ん!?」
掛け声と共に購入したパンは、瞬きの後、俺の目の前に浮かんでいた。
「うっそだろ…」
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モチベに直結します!