或る迷いの竹林の夜
深い深い闇の中、霧に反射して月明かりが一筋滴る。
露に濡れる草花が鬱蒼と生い茂る竹たちをうっすらと照らす。
此処は竹林。
忘れられた者共の住まう幻想郷の片隅に佇む迷いの竹林。
静かな風が流れ、どこからかリンリンと合奏が聞こえる。
鈴虫の美しい歌声の響く厳かな夜に、突如異物ともいえる音が流れた。
ザッザッザッ....
土の上で靴が擦れるような音が鳴る。
二人分の足音だ。
どちらもゆっくりと、軽く歩を進める。
ザッザッザッ....
二人は月明かりの下まで歩み寄り、相対したまま動きが止まった。
静寂。
両者はその場で静止し、自然の奏でる音だけがその場を掻き立てる。
永遠にも感じるその時間。
飛び交う視線は闇を見つめる。
リンリンリンリン.....
響き渡る歌声が不意に止まる。
刹那、その場に似つかない紅の光が一瞬にして闇を覆う。
閃光。
燦爛とした光が収まり、その場に現れるは焔。
そして、その中心には先程の二人のうちの片割れが佇む。
陽炎を発生させるほどの熱気、朦朧とするような焔が大きな翼を形作り、羽ばたいた。
壮麗としたその見た目、紅に染まるそれはまさに「不死鳥」
口に一本の煙草を咥え、堂々たる姿を見せるは不老不死、藤原妹紅。
顕現した不死鳥は空中に浮遊し、煌煌と煌めく翼を強くはためかせた。
発生する熱波。
もう一人は即座に熱の壁に吞まれた。
常人なら瞬時に灰に染め上げられる程の威力。
幻想郷に住まう魑魅魍魎共でも炎に曝され、致命傷を負うことになるだろう。
ただし、此処に存在するのは数多の魑魅魍魎ではない。
「難題『火鼠の皮衣』」
一言、言葉を発する。
それだけで、自らを取り囲む熱波が、消え去った。
「難題『龍の頸の玉』」
一言、言葉を発する。
それだけで、五色の弾丸がレーザーのように藤原妹紅の体を貫いた。
「難題『仏の御石の鉢』」
一言、言葉を発する。
それだけで、光り輝く金剛石が妹紅の右腕を切断した。
「難題『燕の子安貝』」
一言、言葉を発する。
それだけで焼け、爛れていた体が瞬時に元に戻った。
魑魅魍魎さえ遥かに凌駕する。
不死鳥と同じ死を超越せし存在、月人。
永遠さえ、須臾さえ手中に収めた元月の民。
そして――――
「難題『蓬莱の玉の枝』」
――――――蓬莱の力を得し、罪人。
七色の丸弾が夜を切り裂く。
四方八方に高速で散らばる丸弾が夜空に消え、また高速で迫ってくる。
縦横無尽に駆け巡り、消え去る弾は的確に妹紅の体を討つ。
永遠と須臾を生きる蓬莱山輝夜。
月の姫の放つ丸弾が妹紅の体を優しく貫いた。
妹紅の体から噴き出す血液が瞬時に止まる。
輝夜の体を蝕む焔が傷ごと消滅する。
妹紅の失われた右腕が後すら残さず復元される。
輝夜の失われた左足が瞬きの間に再生する。
あれから何時間たっただろうか。
時刻はとうに丑の刻を過ぎ、上空から眺めていた月も傾いてきた。
「不死『徐福時空』」
「新難題『金閣寺の一枚天井』」
「滅罪『正直者の死』」
「新難題『月のイルメナイト』」
一筋の炎が龍のようにうねり、輝夜の右肩を食い破る。
赤い宝石のような弾幕が短いレーザーに変化し、妹紅の両足を貫く。
五色の大量の弾幕が亀の甲羅のように犇めきながら輝夜の全身を吞み込む。
金色で辺り一面を覆うような弾幕で妹紅を押し潰す。
何度怪我をして、傷を負い、四肢を捥がれ、命を失っても。
何度も何度も何度も何度も、蘇り、立ち向かう。
不老不死と、不老不死。
戦い、戦い、戦い。
その先に何を見ているわけでもなし。
その先に何を望むわけでもなし。
だから今はひたすらに――――
「「楽しい!!!!!」」
――――――この戦を楽しみたい!!!
また永夜抄系の作品書くんで見てね!
些細なことでもなんかあったら教えてね!
じゃまたどこかで~