秘密の話
ガサガサと人が近づいてくる音が聞こえたとたんに、男性は、元の男らしい仕草に戻った。
「人に聞かれたくない。あっちにあづまやがあったはずだ。行こう」
私の手を握っり、男性が歩き出した。
ひぃっと、身を固めたものの、一向に体に不調は現れない。
あれ?体は男性だけど、心が女性……、もしかして、私の男性アレルギーって心が関係するのかな?
そもそも、人によって強弱がある。お父様やお兄様にはあまり反応しないし、子供も大丈夫。
あづまやに迷路を通って迷わずに到着する。
あれ?ここってあまり知られてないと思ってたんだけど、そうでもないのかな?
「ところで、君は僕が誰だか知ってる?」
首を横にふる。
「まぁそうだろうね。あまり人前に出ることはないから。だけど、君もあまり人前に出ていないのでは?」
こくこくと小さく頷く。
「じゃぁ、私が誰だかってことは詮索しないでくれる?名前は、えっと、エミリオとでも呼んで」
エミリオは男性名だ。
目の前で両足をそろえて、ちょんっと可愛らしく手を膝の上に並べている仕草はどう見ても女性。
身長は180センチ近くあるし、肩幅も広くて、女性の体型ではないんだけれど、それでも仕草と中世的な美しい顔立ちで女性に見えてくるから不思議だ。
「私はリリーよ。”エミリー”、よろしく」
エミリオと名乗られたけれど、エミリーと女性の名前で呼んでみた。
すると、エミリオは、嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せる。
「リリー、私のこと、エミリーって呼んでくれるの?あの、気持ち悪くない?男なのに、心が女とか言い出して、こんなしゃべり方して……」
首を横に振る。
「ちょっと驚いたけれど、気持ち悪いなんて思わないわ。むしろ……心が女だというエミリーだから、こうしてお話ができるんだし」
「え?どういうこと?」
私は、手袋を外したままになっていた左手をエミリオ……いいえ、エミリーの前に差し出して見せた。
捕まれた手首付近が真っ赤になって腫れあがっている。
「まぁ、どうしたの?大丈夫?」
エミリーが焦って立ち上がった。
「あのね、私……男性アレルギーなの」
今まで公爵令嬢として家族と、家に仕える数人の信用できる者たち意外には明かしていない秘密をエミリーに伝えた。
「男性といるだけで、くしゃみや鼻水が出たり、触れられると、発疹が出たり、こうして赤くなって炎症したり……時には気持ち悪くなって熱が出て寝込んでしまうことも……」
エミリーがまぁと言って、口を押えた。
「あづまや」はあえてこのままいきます。
ガゼボという洋風の単語は濁音だらけでエレガントさに欠けるので使わないです。
「東屋」と感じだと一気に和風っぽくなってしまうのでやめときます。
あずまや……が現代的には一番正解なのですが、あづまやも間違いではないので、雰囲気だけであづまやです。誤字ではありません……けど、古い言葉なんだよね……。




