74
いくら婚約していても、確約ではないのだ。エカテリーゼ様はあくまでも今はまだ伯爵令嬢でしかない。
「それに、貴方が嘘つきだということの、何が失礼なのかしら?」
ローレル様が一歩、エカテリーゼ様に近づく。
「い、いくら立場が上の者でも、証拠もなく人を嘘つきだと言うのは失礼というものですわっ!そうでしょう?」
今度はエカテリーゼ様が周りの人たちに同意を求めるように話かける。
確かに、上の立場であればいくらでも下の者を理不尽に扱っていい訳ではない。
「あら、あなたが嘘つきだというのは、王妃様もご存知の事実だと思いますわ」
突然飛び出した王妃様という単語に、エカテリーゼ様はもちろんのこと皆が固まる。
「な、な、何を……」
動揺しているエカテリーゼ様にローレル様はもう一歩近づく。
「ねぇ、これ、素敵でしょう?このドレスについている布で作られた花」
エカテリーゼ様は、今日は青紫色の細身のドレスを身に着けている。この間言っていたアルストロメリアオニックスの花を模したブーケ・ド・コサージュの着いたドレスだ。早速仕立てんだ。とても似合っていて素敵だ。
「何という名前かご存知?」
「は?し、知らないわよ!花の名前なんて」
「私が尋ねているのは、貴方もドレスにつけているでしょう?その名前を聞いているのよ」
ローレル様がセンスの先を、エカテリーゼ様のドレスについているブーケ・ド・コサージュにむける。
「ああ、花飾りのこと?」
エカテリーゼ様の言葉を待って、ローレル様がセンスを広げて口元を覆う。
「あらいやだ。まだ、名前すらご存知ないの?ブーケ・ド・コサージュどいうのよ」
名前すら知らないという言葉に、周りの女性たちがざわめいた。
「ローレル様こそご存知ないのかしら」
「エカテリーゼ様が考案者だと」
「そうよね、初めに身に着けて舞踏会に登場したのはエカテリーゼ様ですものね」
「誰かが勝手に名前を付けたのかしら?エカテリーゼ様の手柄を横取りするつもりで」
ローレル様は周りのざわめきなど完全に無視してエカテリーゼ様にまた一歩近づく。
「ブーケ・ド・コサージュに似た布でドレスを仕立てたみたいですけれど、よく見れば布の艶が全く違いますわよね。私のドレスは、間違いなくブーケ・ド・コサージュの発案者のもとで開発した仕立屋で作っていただいた物なのですけれど……」
その言葉に、周りの女性たちの目がローレル様の目が品定めをするように二人のコサージュに目をむける。
「その、王室御用達の仕立屋から考案者は公爵令嬢のリリーシャンヌ様だと伺っていますけれど?」
エカテリーゼ様の顔が青ざめる。
「王妃様もごひいきにしている仕立屋ですから、当然王妃様もご存知だと思うのですけれど……なぜ、ブーケ・ド・コサージュの名前も知らない、作っている仕立屋も知らない貴方が考案したことになっているのでしょうね?」
ローレル様の言葉に、エカテリーゼ様の顔色がさらに悪くなった。




