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今日も前回と同じオレンジ色のドレス。違うのは、コサージュの種類だ。
胸元には、大きな薔薇の花のコサージュを左肩に近い位置に付けている。花からは少し色味が違うオレンジのオーガンジー生地で作ったリボンがふわりと降りている。リボンを使っているにも関わらず、薔薇の花が主役となっているため、少しも子供っぽさを感じさせない。
スカートの切り返しの部分にも、同じオーガンジー生地で作ったリボンを飾っている。
同じドレスだけれど、印象は全く違うはずだ。
お兄様は今日もエカテリーゼ様をエスコートするために一足先に出ている。
会場に入る。本当はすぐにでも庭に出てあづまやに向かいたいことろだったけれど、婚約者探しをまるっきり放棄するつもりはない。
お父様の気持ちに答えられるように……できれば5人はアレルギーチェックしたいところ。
どなたに近づいてみようかと、入口から奥へと足を進めていると、男性が1人近づいてきた。
「お名前をうかがっても?」
ニコリとほほ笑む男性。
くしゃみは出ない。息も苦しくない。
「リリーですわ」
「リリー嬢、少しお話させていただいても?」
男性が差し出した手に、手を重ねる。
痒くならない。すこし鼻がムズムズっとしているけれど、それだけだ。
「あの、あなたは?」
これだけアレルギーが少なければ、一緒に生活することができるかも……。
子供は別の女性と作っていただいてもいいですし、養子をとってもいい。
ちょっと希望が見えたところで、他の男性が彼の後ろから現れた。
「おいおい、バズリー、お前にはすでに婚約者がいるだろう?いくらこちらのご令嬢が美しくて心を奪われるからと、浮気は駄目だろう?」
婚約者がいる?
「あはは、いや、浮気とかそんなつもりじゃ……。一人で不安そうにしているから、話し相手になって差し上げようと……」
いくらアレルギーが軽い相手でも、誰かの婚約者を奪うつもりはない。残念だと思っていると、あとで来た男性が手を差し出した。
「こんなやつより、俺が相手になりますよ。ジョージと申しますお嬢さん。侯爵家の次男で爵位は継げませんが、次の戦争で武勲を上げ男爵位を賜れるだけの実力はあります」
「戦争?」
思わず首をかしげる。
戦争なんて、私が生まれてから一度も起きていない。いや、20年は起きていないのではないだろうか。
我が国は大陸の中央部に位置しそれなりに大きくて力のある国だ。20年以上前には、同じほど大きな国が北側にあったそうだ。常に周りの国に戦争を仕掛け、領土を広げようとしていたらしい。だけれど、あまりにも頻繁に戦争を起こすため、国民の生活は疲弊していき、ついにそんな王家に反旗を翻す貴族もあらわれ内紛が起きた。そして、国は3つに割れ、我が国の脅威になるような力を失ってしまった。
それ以降、我が国に戦争を仕掛けるだけの力のある国は周りには一つもなく平和が続いているのだけれど。
ジョージ様がハッと口を押える。




