陰口
17歳にもなって婚約者がいない公爵令嬢の私が言うのもなんだけど、20歳になっても婚約者のいない皇太子っていうものかなり問題よね。
皇太子妃なんて、王妃教育を最低でも2~3年してからご成婚でしょう?なんで、いまだに婚約者がいないんだろう。
まさか、皇太子と格と年齢と合う女性の筆頭が、公爵令嬢の私で、私に遠慮して誰も名乗りをあげられないなんてことはないわよね?
……えええっ!もしそうなら、私、さっさと結婚しないと皇太子妃……未来の王妃選びにまで影響しちゃうってこと?
け、結婚しないまでも、誰かと婚約するとか、好きな人がいて皇太子妃になるつもりはこれっぽちもないとか何らか意思表明しないと動けない人がいるって話?
いや、もしかしたら、皇太子の方が誰か心に決めた人がいるけど身分差とかでなかなか思うように婚約まで進めないとか。単に皇太子側の何らかの事情なのかもしれないけれど。
どっちなんだろう。私のせいじゃないよね?
とにかく、庭に出る窓を見つけた。
母が生きていたころは、公爵家同志の付き合いもあり、何度かお邪魔したことのあるお屋敷だ。
庭に出て、薔薇園の迷路の奥に人がめったにこない東屋があったはずだ。
なんせ、迷路のゴールとされている噴水のさらに奥にあり、知る人ぞ知る場所なのだ。
そこに、隠れよう。
扇で顔を隠すようにして壁際を男性を避けて進んでいく。
「あらやだ、見て。だっさいドレス」
「ピンクなんて子供っぽい。婚約者を探す気があるのかしら?」
「案外すでに婚約者がいて、その方の趣味という可能性もありましてよ?」
「そんな幼女趣味の婚約者などいない方がマシじゃありません?」
女性たちが私を嘲る声が聞こえてきて、ほっとする。
男性が近くにいない、女性がいるのは幸せなことだ。
しかもどうやら、私のこのドレスは、あまり男性受けがよくないようだ。
これからも、もし同じように婚約者探しに舞踏会に出なさいとお父様に言われるなら、またピンクのドレスにしよう。
しかも、もっと幼い子が好むようなスカートが大きく膨らんでいるもの。胸元にまでたくさんのレースをつけてもらって、そう、大きなリボンをたくさんつけてもらいましょう。頭にも同じ布で作ったリボンをつけましょう。
無事に女性たちの間をすり抜け、窓から庭に出る。
幸い、まだ舞踏会は始まったばかりで、参加者たちは出会いを求めて会場の中にいる人がほとんどのようだ。
これが、終盤になってくるにつれて、庭に出て静かに語り合う人たちが増えるとお兄様が言っていた。
そうそう、婚約者がいる人たちは顔見知りへの挨拶を済ませると庭に出るとか。
流石にまだそうい人たちもいない。