げほっ
「んん、おいしいっ!」
外がサクっとしていて、中はしっとり、クリームがとろとろ。
甘いなかに苺の酸味が口の中で混ざり合い、おいしいっ!
「まぁ、本当にくいしん坊さん。そんなに幸せそうな顔で食べるなんて、可愛くて抱きしめたくなっちゃうわっ!」
だ、抱きしめたくなる?!
突然抱きしめられるんじゃないかとちょっと身構える。
いや、別に嫌とかじゃないんだけど、心の準備がね?
やだ、ドキドキしてきちゃった。
「うふっ、リリーをそんなに幸せそうにしたマカロッツォはどんなお味なのかしら?」
エミリーが私がかじったピンクのマカロッツォの残りをパクリと口に入れた。
「!!」
これ、小説で読んだことがありますっ。一つの食べ物を二人で分けて食べるのではなくて……同じ食べ物を二人が食べるのは……。
間接キス……って。
キス……。
咀嚼しているエミリーの口元に思わず視線が吸い寄せられた。
エミリーの唇……柔らかかったなぁ……。気持ちよかった。
って、やだ、やだ、何思い出してるの。気持ちよかったなんて!私ったら!
ダメダメ、エミリーに知られたらおかしな子だと思われちゃうっ。
赤くなりそうなのを必死に抑え、心を悟られないように早口にならないように、気持ちを抑えて。
「サンドイッチも食べてもいい?お腹がすいちゃったわ」
ケーキスタンドの一番下に置いてあるサンドイッチを手に取り食べる。
落ち着かないと。うん、落ち着こう。
落ち着こうと思っているのに、どうやら、裏腹に全然落ち着けなかったようで。いつもよりも早くサンドイッチを食べすすめてしまい……。
「ごっほ、げほっ」
むせた。
いやー、恥ずかしいっ!
慌てて食べ過ぎて、むせるとか!
貴族にあるまじき、いや、貴族じゃなくても年頃の女としてどうなの!
ゴホゴホとむせ、背中を折り曲げてせき込む。
エミリーに呆れられるよねぇ。
「大丈夫?リリー」
優しく背中を撫でるエミリーの手。心配そうな声にほっとする。
「うん、げほげほ、もう、大丈夫……その、みっともない姿を見せちゃって……」
「くすくす、もうリリーったら、本当にくいしん坊さんなのねぇ。慌てなくてもサンドイッチは逃げてかないわよ?ううん、違うわね。そんなにお腹が空くまで何も持ってきてあげなくてごめんなさい。今度は初めから何かお茶と焼き菓子でも用意しましょうか」
エミリーがニコニコと笑っている。
よかった。呆れられてない。
それどころか、今度だって。次の話をしてくれる。よかった。
ほっとして胸をなでおろす。




