ぷくっ
「ううん、早く会いたかった。早くお話したい。だから、私も、子供みたいに走っていきたいくらいよ」
手を前に出すと、一度離れたエミリーの手が私の手をつかんだ。
「じゃぁ、行きましょう!」
「ええ!」
手をつないで、あづまやに走って向かう。
貴族令嬢が走るなんてみっともない。貴族令息が女性の手を引っ張るなんてマナー違反だ。
だけど、そんなことをいう人は誰もいない。
私とエミリー、二人だけの秘密だもの。
あづまやに着くと、二人で横並びに座った。
「リリー会いたかったわ。ああ、色々話したいことがあったんだけれど、でも、まず最初に言わせて」
エミリーがすぐ横で私の顔を見て興奮気味に声を上げる。
「そのドレス、なんて素敵なの!きゅんです、きゅんっ!ああ、もう、オレンジ色のドレスなんて見たくもないなんて思っていた私の馬鹿って感じよ!リリー、とっても素敵!これを何て表現すればいいのかしら?リリーの肌の色に、濃すぎず薄すぎない、ちょうどいいオレンジの色、それに」
次々と出てくるエミリーのドレスを褒める言葉に、嬉しくなる。
「ありがとうエミリー。ふふ、スカートの下の方のフワフワ、かわいいでしょ?こうして座って話せば、フワフワでフリフリが目に入るようにと、仕立屋にお願いしたの。前のようにフリルをたくさんつけると悪目立ちすると行けないから付けられなかったんだけど。でも、エミリーにかわいい物見せたくて」
「私のために?嬉しいわ。嬉しい。本当にかわいい。オーガンジーが重なっているのがラナンキュラスみたいね」
「え?ラナンキュラス?」
言われてスカートを見下ろしてみれば、確かに座って円状に広がったスカートは花のようで、幾重にも重ねたオーガンジーの優しい色は、ラナンキュラスの花のような柔らかさがある。
「私、さっき、エミリーを見たときにラナンキュラスみたいって持ったの。垣根の隙間からのぞいたエミリーの顔が、ラナンキュラスの花みたいだって思って」
エミリーが私の言葉に、ぱぁっとまさに満開の花のような美しい表情を浮かべる。
「まぁ、本当?嬉しい。私、花に例えられたのなんて初めてよ!感激!」
感極まり、エミリーが両手で私の手を握った。
「そうなの?エミリーのオレンジ色の髪は、とても美しくて花の色のようなのに……」
光の加減で、黄色っぽくも見える。美しい色だ。よく手入れもされているのだろう。つややかだし、ふわりと柔らかそう。
「ああ、もう、リリー好き、大好き!嬉しくて泣きそうよ!そうね、私の髪の毛を褒めるときって、みぃーんな口をそろえたようにライオンのたてがみのようだとか言うのよ!」
エミリーがちょっとぷんぷんとむくれたように頬を膨らます。かわいい。




