似合います
そういえばローレル様は何家の方だったのか、確認するのを忘れていた。
私を男爵家だと思っているなら、伯爵家や侯爵家の方なら友達という立場になるのは難しいと思っているだろう。
公爵令嬢だと知られたら逆に、恐縮して距離を置かれてしまうだろうか?
「あなた、お名前は?
「リリーです」
「リリー、花の名前ね。だから、貴方はそんなに愛らしいのね」
愛らしい……。その言葉に頬が暑くなる。
ローレル様、私、家族以外に褒められることが慣れてなくて心の準備なく唐突に褒められると、嬉しいやら恥ずかしいやら。
「ろ、ローレル様も、アルストロメリアオニックスのように、素敵ですっ!」
慌てて思い浮かんだ花の名前を口にする。
「あら、アルストロメリア オニックス、よくご存じね。花言葉は凛々しいでしたかしら。リリーの目には、私はそのように見えているということなのね?」
うわ、しまった。
愛らしいと言ってもらったのに、凛々しいですねなんて褒めてない。美しいとか綺麗とかもっと相応しい花がいくらでもあるのに。
どうしようと思っていたら、ローレル様がニコリとほほ笑んだ。
「嬉しいわ。私、花に例えられたことは初めてよ。しかも、その花が私の一番好きな花なんですもの。ふふ、そうだわ、今度はアルストロメリアオニックス色の、紫のドレスを作りましょう。胸元に、アルストロメリアオニックスの形をしたブーケ・ド・コサージュを飾ったら素敵だと思わない?」
ローレル様が、アルストロメリアオニックス色の深い紫いろのドレスを身にまとっている姿を想像する。きっと、フリルも控えめで、体の線を美しく見せる形のドレスだろう。シンプルな飾り気のないドレスに、胸元にアルストロメリアオニックスのブーケ・ド・コサージュ。
あまりに素敵な姿に、ため息が漏れそうだ。
私、赤や黒や紫は怖いなんてそんなふうに思っていた自分が恥ずかしい。
ちゃんと似合う人が美しく着こなせば、何も怖いことなんてない。美しさにため息が漏れるだろう。
絶対に似合いますと口にしようとする前に、アンナ様とハンナ様が口を開いた。相変わらずどちらがどちらか分かりません。
「絶対に似合うと思います!」
「是非、見て見たいです!ですから、そのブーケ・ド、コサージュのことを知っている仕立屋を教えてくださいませ!」
二人の言葉に、ローレル様が困った顔を見せた。




