いざ、舞踏会へ
「じゃなければ……」
お父様がスクっと立ち上がって、窓際に立ち、窓の外を見た。
「寝たきりで死を待つばかりの伯爵家に嫁がせる」
「そんな方がいらっしゃるのですか?」
私の質問に、お父様は答えなかった。
ま、まさか、そんな都合のいい伯爵を作るつもりじゃ……。
ダメ、流石に、毒を盛ったり事故に合わせたりして寝たきりにさせるわけではないと思うけれど……。何か条件を出して、私に一切触れないようにさせることくらいはするだろう。もし手を出したら幽閉するくらいは言いそうだ。
権力を使った脅し……お父様が一番嫌っている手段だ。
お父様にそんなことをさせるわけにはいかない……。修道院に行くのは、最後の最後の最後の手段……いえ、なんならお父様が亡くなった後だって遅くはないのだから。
「分かりました。明日の舞踏会……人生2度目の舞踏会……頑張ってきます」
人生2度目の舞踏会は、兄のエスコートで会場に入った。
……うわ。ドレス姿の女性は皆華やか。
オレンジ色が今年の流行なのかしら?全く舞踏会には足を運ばないので、分からない。ただ、やたらとオレンジ色のドレスを身に着けた方が多いなぁと。
私、ピンクのドレスです。やたらとフリルも着いた……ちょっと子供っぽいデザインのドレスです。
しまった。お母様がいないから、ドレスに口を出すのがお父様とお兄様で……全くあてに出来なかったみたいだ。これ、17歳むきじゃないよ。どう考えても、12、3歳までの子供が着るデザインでしょう。
……まぁ、男性の視線を引きたいわけじゃないからいいんですけど。それに、真っ赤や紫なんかの妖艶な色といわれるものよりピンクは好きなのは確かです。
ふわふわとして柔らかい感じがしていいよね。
「無理はするなよ。気分が悪くなったらすぐに言うんだぞ?」
兄が心配そうに私に耳打ちを繰り返す。
会場に入って、壁際にまで私を案内すると、兄は自分の婚約者のもとに足を運ぶ。本当は今日は婚約者をエスコートしてくる予定だったのに、悪いことをした。
……さて、どうしたものか……。アレルギーが軽い人なんているのかな?
試しに、給仕の男性に飲み物を頼んで受け取った。
触れることはないものの距離的にはあと10センチで触れそう。
……くしゃみが出た。
果実水を飲んでいると、背後に誰かが立った。
「見ない顔だねぇ?どこのご令嬢かな?今日は玉の輿目指して頑張って舞踏会に来た感じ?」
振り返ると、同じくらいの背丈のニキビ面の男の人がいた。
うっ。
ダメだ。この人。
この距離でも全身がざわざわして痒くなってきた。