兄のエスコート
「リリーシャンヌ様、是非、是非とも、流行らせましょう!いいえ、一時の流行で終わらぬよう、伝統として定着させましょう!ドレスのデザインを手軽に変えられるというだけでも、ブーケ・ド・コサージュのアイデアは素晴らしいのに。恋愛のアイテムとして用いるなんて……きっと、リリーシャンヌ様のお名前はファッション界にいつまでも残ることになるでしょう!」
なんだか大げさですけど。
名前が残る残らないはどうでもいいけれど、どうやらこれでエミリーがブーケ・ド・コサージュを持っているのが見つかっても取り上げられたり怪しまれたりしないようになりそうです。
女性から告白されて、もらいましたと。無下に捨てるわけにもいかないとかなんとか言ってしまっておこうみたいな。
モテモテの優しい男性のふりをして、集めたブーケ・ド・コサージュを、夜な夜な「きゃーかわいいわ!癒されるぅ」と眺める。
そんな姿を見てニマニマしてしまった。
「嬉しそうな顔をされていらっしゃいますね。お任せください!私がきっとリリーシャンヌ様の名を広めます!」
デザイナーがどんっと胸を叩いた。
いや、勘違いされてしまったようですけど。名前は、広げなくてもいいですよ?
一通り話が終わったころ、トントントンとドアが叩かれた。
「リリー、仕立屋が来ていると聞いたのだが、ちょっといいかな」
「どうぞ、お兄様」
どうしたんだろう?
許可を出すとすぐにお兄様が入って来た。
「エカテリーゼに贈るドレスのことなんだが……」
私がエスコートにお兄様をお借りしたときの埋め合わせのドレスね。3日前に私のドレスの打ち合わせの前に、注文しましたよね?
すでに、エカテリーゼ様にドレスを送るのは何度めかなので、採寸などしなくても仕立屋にサイズの記録もあるし。あとは流行を取り入れお任せでと、ざっくりと注文したはずでは?
「1着しか贈ってくださらないの?あんなに寂しかったのにと、言われてしまってね」
あんなにって、会場についたらすぐにお兄様はエカテリーゼ様のもとにすっ飛んで行ったけれど……ね?
「ほら、ここで機嫌を損ねると、リリーのエスコートが出来なくなってしまうだろう?」
「ああ、それなら大丈夫ですわよお兄様。会場の様子も分かりましたし、次回からはエスコートは必要ありません。いつものようにエカテリーゼ様のエスコートをしてあげてください」
私の言葉に、明らかにお兄様はほっとしたように息を吐きだした。




