人生を考えると
「すまん、リリー……赤くなってしまったな」
どこか見える場所が赤くなってしまったようだ。お父様が心配そうな顔を見せる。
「大丈夫です。息も苦しくありませんし、痒くもありません。赤いのはすぐに収まります。それよりも、お父様に撫でていただけてとても嬉しいんです」
「リリー……」
本当は、ぎゅっと抱きしめてほしい。もう17歳になるというのに、親に抱きしめてほしいなんておかしいだろうか。
だけれど私は、10歳でお母様を亡くしてから、家族に抱きしめられた記憶がない。
お父様にも、お兄様にも……。
唯一私を抱きしめてくれた家族……ううん、抱きしめることができた家族である母が亡くなってからは……、極度の男性アレルギーを持つ私をお父様もお兄様も抱きしめることはない。
そう、私は、男性アレルギーを持っている。
相手によって、出る症状は様々だ。一番症状が出ないのがお父様。触れてもせいぜい肌のどこかが赤くなる程度。ただ、抱きしめたりあまりに密着すれば全身に湿疹がでたりすることもある。
成人前の子供であれば、大丈夫。だけれど、男児から男性になってしまうともう駄目だ。
アレルギーが強く出る相手とは、触れなくとも、息がかかる距離にいるだけでも痒くなってくる。鼻水が出て目が充血して。
万が一そんな相手に触れられれば、全身に発疹が出て、熱が上がり、呼吸ができなくなって、命の危険すらある。
お医者様も原因はよくわからないと。そのため、治療もままならず、もしかすると成長とともにアレルギーが直るかもしれないと今日まで来た。
だけれど、治る見込みなど全くない。
貴族の娘ともなれば、成人までには婚約者を持ち、20歳までには結婚するのが当たり前という世界だ。
17歳になるまで、社交界に顔を出さず婚約者も持たない私。学校にすら通っていない。
極力男性と接することなく今まで過ごしてきたのだ。
「ずっと家にいればいい」
お父様はそう言うけれど。
屋敷から出ずに一生を終えることを想像してしまった。
女修道院は、女性しかいない。王城の敷地の3倍ほどの広い場所で、共同で畑を耕し、縫物や織物をして売り物を作っていると聞いた。
屋敷に籠って一生を終えるよりも、修道院で生活した方が幸せなのかもと思ったのだ。
「お父様が生きていらっしゃる間は、私は公爵令嬢ですけれど……お父様が亡くなり、お兄様が後を継いだら、……私は厄介者の居候です」
「ロバートが、お前を厄介者扱いするわけないだろう?」
もちろん、お兄様がそんな風に私を思うとは思えないけれど。
それでも、お兄様が結婚して子供も生まれて……私の使っていた部屋は、次代の公爵令嬢……お兄様の子供がちが使うようになるだろう。
私は、男性と接しないようにと、離れに住まわせてもらうようになるのか……人との接触がますますなくなってしまうのは間違いない。
色々考えると、やはり行きつくのは女修道院。




