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……うん、手紙のことは、また考えよう。
「ローレル様、ご心配をおかけいたしました。父と兄からの手紙でした。これを読んだら元気が出ました」
まずは、王都へ戻ろう。
王都へはまだ数日かかる。その間に色々考えればいい。
いや、王都についてから、どんな状況になっているのか確認してからでもいいはず。
「あら?本当に大丈夫なの?無理しないで。私たちに気を使わなくても大丈夫よ?」
ローレル様が心配そうに私の顔を見た。
「本当に、もう大丈夫です。あの、兄も領地から戻ったようで、その、早く顔を見たいですし……」
ローレル様がちょっと首を傾げた。
「……お兄様って、今考えれば公爵令息のロバート様でしょう?」
そして、ちょっと不快そうに眉根を寄せる。
「あ、あの、ご存知なのですか?」
って、馬鹿な質問をしてしまった。直接関係がなくとも、まともな貴族であれば公爵令息のことを知らないわけがない。
「……エカテリーゼ様と婚約されていらっしゃいますわよね」
そうよね、そういうことも当然ご存知よね。
「リリー様がいらっしゃった舞踏会でもお2人でいるところを見ましたわ」
確かに、あの場にいたのなら見かけることもあります。
……それにしても、なぜエカテリーゼ様は、こんな声に怒りがにじんでいるのだろうか。
「あの、お兄様が、なにか失礼なことを……?」
お兄様が、失礼を働くとは思えない。あの、伯爵令息のなんたらとか、女性を軽率に扱うような真似をするわけはない。
爵位を鼻にかけて、我儘にふるまうようなこともない。むしろ、周りに気を使いすぎて押しが弱いような兄だ。
「いいえ。何もされていませんわ」
何もされていないと言う割には、なんだか、さらに不愉快な表情になった。
「あの、違っていたらごめんなさい。ローレル様は兄のことをよく思われていないのでしょうか?」
私の言葉に、ふぅーっと、深いため息を漏らした。
「……ごめんなさい。リリー様にとってはお兄様ですものね。不快な表情を見せてしまって……」
ああ、やっぱりお兄様に対していい気持ちを持っていない?
「ねぇ、リリー様。その手紙に、ロバート様が早く帰ってこいと強要するようなことが書いてあって、無理に戻ることを決意したのではなくて?もし、ロバート様に逆らえなくて体調がまだ戻っていないのに無理しようとしているのなら、私は許さないわ」
お兄様が、私に早く帰れと命令した?
私がお兄様に逆らえずに王都に帰ろうとしている?




