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「大した戦争にはならないという話でしたが……それでも戦争が終わったら色々あるでしょうね……」
ローレル様の領地に到着すると、公爵令嬢をお招きするということで申し訳ないほど歓待された。
アンナ様とハンナ様は途中のお2人の領地で別れたため、ローレル様のお屋敷についてからは二人で行動することが多い。
「そういえば、ローレル様のご家族の方も、南方の砦に行っていらっしゃるのよね」
「そうね。北の国との戦争をしている隙に、手薄になっただろうと勝手に推測した愚か者が南側から攻めてこないとも限らないですものね」
「大変ですわね……」
お父様はすぐに終わる戦争だ。大丈夫と言っていたけれど、それでもあちこちにこうして影響がでるんだ。
「大したことないわよ。愚か者も砦が強固に固められていることをすれば馬鹿なことはしないでしょうし。きっと、王都や王都に近い領地の方が大変でしょう」
え?
「孤児が増えるでしょうし」
「そうでしょうか?それほどの犠牲者が出るようなことは……」
多少は増えるかもしれない。一人も亡くならないのが理想だ。こちらの軍勢を見て、相手が逃げ帰ってくれればいい。
だけれど、もし戦闘になれば、全く誰も傷つかないわけにはいかないだろう。中には命を落とす人も……。
「生きていても戻らない人もいるんですよ」
「え?」
「家族の元に戻りたくない理由が何かあるのか、戦争で人生観が変わってしまうのか分かりませんが、引き上げるときにふらりと姿を消してしまう人が何人もいると聞きます」
まさか……。戦争が終われば、一日も早く家に帰りたくなるものじゃないの?家族が待つ家に……。
「中には、移動中に知り合った女性といい中になって戻らない人も」
「ひどいっ。なんて勝手な!」
ローレル様が悲しそうな顔をする。
「……人を殺してしまったことで悪夢を見るようになり帰れなくなる人もいるし、命は助かっても手足を失い十分に働けなくなって家族の負担にならなようにと身を隠す人もいる……身勝手なのは、戦争を始める人です」
はっとする。
そうだ。一番身勝手なのは戦争を始める人。
沢山の人たちが兵として駆り出されている。王都も公爵領も。
そうか。兵の何割かは戻ってこない可能性を考えないといけないんだ。
孤児、もしくは女手一つで子供を育てていくことになる。
孤児が預けられる孤児院への支援は当然お父様も行うはずだ。戦死した家族へはお金も渡される。
生きているのに戻らなかったために働き手を失った女性たちへの保証は?どうなっているのだろう。
いや、戦争だけじゃない。働き手を失った女性たちは他にもいる。いったい、どのように生活しているのか。考えたことも無かった。
そう言えば……私が行こうとしていた修道院……。女性ばかりで過ごすことができる天国だと思っていた場所。
10歳までの子供なら男の子もいるらしい。もちろん修道院へ入った女性の子供だ。暴力をふるう夫から逃げてくる場所でもあるらしい。
お父様が嘆くくらい、男の人は入ることができない修道院。例え陛下でも入れない。警備は厳しいため夫や父親などの家族から逃げるために修道院へ入る人がいると……。だけれど、10歳で男の子は出て行かなければならない。子供と一緒に修道院を出る女性はその後どうなるのか。
女性が身を寄せ合って、協力して子育てしたりする場所はあるのだろうか。男の人の手を借りなくても女性たちだけで……。
女性の仕事は何があるのだろう。子供を育てながら働ける場所はあるのだろうか。
女性の仕事……。私ができることと言えば、何だろうか。




