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ドラゴノイド  作者: かわずなすた
1/1

出会い

大都市とだけあって、町は喧騒に包まれている。

大通りでは新鮮な野菜や果物、魚や肉を売る出店で賑わっている。

皆が楽しそうな雰囲気に包まれているのを見ていると、自分がえらく場違いな奴だと感じる。

いたたまれなくなり、どこか人気のない裏路地を探し歩くと喧騒がだんだんと薄れていった。さらに歩くと、大都市には似つかわしくない、どこか時代に取り残された雰囲気の噴水を見つけた。少しばかり休憩でもと、その縁に座って物思いにふける。

自分はいったい何のために生まれたのか、この体は何のためにあるのか。

考えたところで答えなどではしない。もうどのくらい長い間この答えを探してきたのだろうか。しかし、考えることをやめることはできなかった。それほど自分が周りとは乖離した存在であることはこの長い年月でいやというほど身に染みている。


少し気分が落ち込んでしまった。あまり暗いことを長く考えるものではないのかもしれない。この先何年生きるかわからないのだ。今ぐらいは楽しく過ごしていたい。

そうして、腰を上げて背伸びをする。辺りを見渡すと奥に道が続いていた。

先を見るにどうにも大都市とは思えない不思議な雰囲気だった。

興味がわいた。この先にはいったい何があるのだろうか。

奥のほうへと進んでいくと、先ほどまでの風化していた石壁がどんどんとツタに包まれていき、しまいには石の部分が見えなくなっていた。そして何やら怪しげな雰囲気の地下への入口らしきものを見つけた。あたりを見渡して誰もいないのを確認して中に入る。


中に入ると急に肌寒く感じた。この独特の雰囲気のせいなのか。

どうやらここは地下牢らしい。しかしもう使われていないみたいだ。鉄格子はさび、辺りはカビや苔が生えている。

探検でも楽しむつもりでどんどんと奥へ進んでいく。さすがに大都市というだけあってか、古い施設でも規模が大きい。しかし使われていないと思うと、どうにももったいないと感じる。

そんな風に思いながら歩いていくと、造りの立派な扉を見つけた。大方、城にでも繋がっているのだろう。錠はついているがこの程度なら壊せそうだ。

錠を壊し、扉を開けると地下への階段が姿を現した。どうやら城に繋がっているというわけでもないみたいだ。そのまま降りていくと何やら実験室のようなところに出た。

試験管やフラスコ、壁には魔法陣が刻まれていたりと、魔法研究でもしていたのだろう。さらに奥へと進むと今度は様々な標本が出てきた。サラマンダーにゴブリン、こちらはケルピーだろうか、ホルマリン漬けにされている。

じっくりと観察しているとどこからか音がしてきた。音のもとを探していると、奥の壁から聞こえていたのが分かった。

隙間が空いているので中をのぞくと、ほのかにろうそくの明かりが見えた。見た感じだと向こうも地下牢なのだろう。こちらと違って向こうは使われているのだろう。


幸いなのか、老朽化していて壁は簡単に崩せそうだ。できるだけ音をたてないようにして崩していき、一人が通れるほどの穴ができた。穴をくぐりぬけて、向かいへ立つと少し先に曲がり角がある。慎重に角の先を見ると大きな牢屋が一つだけあった。兵はいないみたいだ。牢屋の中には長い黒髪の女が鎖につながれていた。

一体彼女は何者なんだ。普通こんな牢屋に一人というのもおかしい。とりあえず、牢屋を離れ奥へ行くと頑丈そうな扉が見えた。おそらく

牢屋の一番奥の場所とつながっていたのだろう。

だとしたら、鎖につながれていた彼女はいったい何者なんだと興味がわいた。

牢屋の前に立ち、

「なぜ君はこんなところにいるんだ?」

そう問いかけると、彼女は驚いた様子でこちらを見た。

「あなたは兵士の方ではないようですね。いったいどこから入ってきたのですか?」

透き通った碧い目はこちらを警戒しているようだった。

「地下牢を見つけて、奥に進んでたらここを見つけたんだ。それより、俺は何で君がこんなところで一人でいるのかが気になっているんだ。なにかとてつもなく悪いことでもしたのかい?」

「そうですね、私もなぜ自分がここにいるのかわかりません。けれど、周りの人たちは私のことが怖いからここに閉じ込めているのでしょうね。」

一体どういうことなのだろうか。答えてはくれているみたいだが、答えにしては曖昧だ。

「なぜ周りの人たちは君を怖がるんだ?」

「さぁ、なんででしょうね。」

そうやって彼女は微笑んだ。

理由はよくわからなかったが、話していて彼女が何かをしたというわけではないみたいだった。

そう思うと、彼女をここから出してあげたくなった。

「ここから出たいか?」

「そうですね、できたらまた日の光を浴びたいですね」

「わかった。」

そういって牢屋のカギを壊し、牢屋を開けた。彼女はまた驚いた様子でこちらをみた。

そんな彼女を気にせず手に繋がっている鎖を壊していく。すべて壊し終えても彼女は自分の様子を飲み込めていないようだった。

あまり長いすると見つかるかも知れないので彼女の手を引き、実験室に戻り、壁を塞いでおく

そうして噴水のところまで戻ってきた。


噴水に戻って彼女を縁に座らせた。あらためて彼女を見ると、牢屋に入れられていたため、ぼろぼろの服を着、体はやせ細っている。しかし、顔立ちは端正で目も透き通った碧をしていて整っている。

とりあえず連れてきてしまったが、ここで、さぁもう自由だというわけにもいかないだろう。少なくとも身なりを整えたほうがよさそうだ。

「あ、あの・・・助けてくださってありがとうございます」

不意に、感謝されて驚く。急いだために彼女のことをほったらかしにしていた。

「いや、俺が助けたいと思ったから助けただけだ。むしろ勝手に連れ出してしまってすまない。」

「いえ、勝手だなんて。むしろ連れ出していただけて感謝してもしきれません。」

「そう言ってくれる助かるよ。・・・ところで、今のままだと何かと不便だろう。特に身なりはキチンと整えたほうがいいと思う。そこでよかったらなんだが、大通りに揃えにいかないか?」

なんだか、恥ずかしい。言葉だけ聞けばデートに誘っているようにも聞こえるだろう。

しかし、内心そう思っているのも自分だけのようだ。対して、彼女の方は申し訳なさそうにしている。

「いえ、私はこの通りですのでお金もありませんし・・・」

「そこは大丈夫だ。全部俺が持つ。」

「でもそこまでしてもらうわけにはいきません。」

「気にしないでくれ、といっても君は気にするだろう。ただ、俺が放っておけないんだ。ここまで連れ出して何もしないのも後味が悪いし、それに君を見ているとなんだか不思議な気分になるんだ。」

そういうと彼女は少し頬を赤らめた。

「なんだか、告白されているみたいですね。・・・そうですね、ではお言葉に甘えさせていただきますね。」

そう言って彼女は微笑んだ。


「とりあえず、まずは風呂に入るのが優先だ。これから君を宿に連れて行く。ただこのまま連れていくと目立つから、これを着て、できるだけ静かにそばを離れないようについてきてくれ。」

「分かりました。それと、私の名前はアイです。」

「そうか、アイ。俺の名前はレイだ、よろしくな。」

「はい、よろしくお願いしますね、レイさん。」

「さん付けはいいよ。それに敬語もいい。そのほうが話しやすいだろう?」

「分かりました。」

敬語は変わらなかったが、そういう彼女はなんだか嬉しそうな表情だった。

できるだけ、人気のない道を選び宿に向かう

宿につき、階段を上がりドアを開ける。

「さぁ、入ってくれ。」

そういうと彼女はすんなりと部屋に入った。今更ではあるが、ついさっき出会ったばかりの男の部屋にすんなり入るとは、少し警戒心が薄いのではないだろうか。

そんなことを思いながら、彼女に風呂に入るように促す。

「俺は今から少し外に出てくる。着替えは部屋においてあるから、好きにに着てくれ。」

「分かりました。何から何までありがとうございます。」

そういって彼女は風呂に向かった。それを確認して、部屋を出る。

あのまま部屋にいるのもなんだか申し訳がないし、あの様子をみるに十分な食事をとれていなかったのだろう。きっと、今も腹を空かせているだろうし、軽食でも用意しておいたほうがよさそうだ。

確か通りにはパン屋があったはずだ。そこでパンを買って、あとはベーコンとレタスでも買っておけばサンドウィッチにでもなるだろう。目玉焼きをはさむのもいいが、部屋では調理ができない。ならほかに何がいいだろうか。


宿に戻った。部屋に入る前に「入っていいか。」と尋ねると、「どうぞ。」と聞こえたのでそのままドアを開ける。中に入ると彼女は静かに座っていた。

風呂に入ったおかげか、先ほどまで汚れていた肌は元の白さを取り戻しており、ぼさぼさだった髪もきれいになっている。そしておいておいた軽装備を着ていた

自分の手持ちの中だと普通の服はなかったが、あのぼろぼろの服よりかはましだろう。

「服、ありがとうございます。」

そういって彼女は軽くお辞儀する。大したものでもないので、そうされると少し申し訳ない。

「とりあえずお腹もすいているだろうし、軽食を買ってきたから、良ければ食べてくれ。」

「ありがとうございます。ではいただきます。」

そう言って彼女は食べ始めた。ろくな食べ物を与えられていなかったのだろう、とてもおいしそうに食べている。見ていて楽しい。

食べ終えたところで、アイに話しかける。

「おいしかった?。」

「はいっ。とてもおいしかったです。」

そう言って満面の笑みで答えられると嬉しい。

「よかった。それじゃあお腹も膨れたから買い物に行こうか。」

「はい。」

そうアイは言って、立ち上がった。


大通りであらかた買い物を終え、帰路に就く。

買い物を終えてか、アイは楽しそうである。買ったばかりの服を着て、長い髪は一つにまとめている。

「似合っているね。」

「本当ですか!。ありがとうございます。」

「気に入ったようで何よりだよ。ところで、これからどうする?」

「そうですね・・・。」

アイの顔がくぐもった。どうしたのだろうか。顔色を窺おうとアイを見ると、アイは前をみて、

「どうしたのでしょうか。」

と指を指した。

指したほうを見ると、人だかりができている。

近づいてみると、みな掲示板を見ている。

そこには凶悪犯が逃げ出したとアイの顔つきで張り出されていた。

アイのほうを見ると、不安げな顔をしている。

幸いにも地下牢にいた時の様だったのですぐにはばれないだろうが、あまり長くここにいるのもよくないだろう。今晩中にはこの町も出たほうがよさそうだ。


宿に戻っても、アイはまだ不安げだった。

「このままここにいても、見つかるのは時間の問題だと思う。今晩中にはここを出ようと思う。アイはどうする?」

「・・・・・。」

「・・・一緒に来るか?」

アイは迷っているようだ。

「今のまま別れても、また捕まるのは時間の問題だ。それに行く当てもないんだろう?」

そう聞くと、静かにうなずき、

「ここまでお世話になっておいてこれ以上ご迷惑をかけるわけには・・・」

そうたじろいでいると、突然ノックの音がした。

「アルフレイド軍だ。この宿に凶悪犯がいると通報を受けた。開けるぞ。」

黙って開ければいいのに・・・。礼儀正しいのか、頭が固いのか。

しかし、もたもたしているわけにもいかない。急いで脱出しなければ。

「アイごめんっ。」

「きゃあ。」

アイを抱えて窓から飛び降りる。

「逃げたぞ!追え!」

間一髪といったところか。顔を見られなかっただけでも良かった。

取り急ぎ、郊外の森まで走る。伝達が速いようで、あちこちから兵士たちの足音らしきものが迫ってきている。

何とか森に逃げ込んだはいいものの、追ってはいまだに途絶えない。しかも数が増えている。

このままでは二人とも捕まるだろう。

あまりここで使いたくはないが仕方ない。

アイをおろし

「一緒に来るか?」

と再び聞くとアイは静かにうなずいた。

「分かった。」とだけ答え、俺は竜に姿を変えた。

目を丸くしているアイを手に乗せ、空へと飛んだ。


「レイは竜だったんですね。」

「あぁ。怖がらせたようならすまない。」

「怖がってなんていませんよ。驚きはしましたけど。」

「そうか。」

「それに感謝しているんです。私をここまで連れ出してくれたことに.もう外には出られないかと思っていましたし。」

「そう言ってくれると嬉しいよ。」

「はい!ところで、これからどこに向かうんですか。」

「できるだけアルフレイドから離れたほうがいいだろう。たしか南の外れのほうに小さい町があったと思う。とりあえずはそこに行ってみようと思う。ここから半日ぐらいかかるから寝ていていいよ。」

「ありがとうございます。お言葉に甘えて休ませてもらいますね。」

そう言って、安心したようにアイは眠りについた。


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