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時間はそんなに無いと思う。
悠長なこと言ってられない状況が双方にある。
ルーファス様は悪事を明るみに出したくない。
特に恐れるのは実質上の国王とも言える宰相かな。
父達は実力行使されるのを恐れているし、既に家族夜逃げ作戦を話し合っていると思われる。
証拠を上げて宰相に告げ口し、この縁談を速やかに終わらせなければならない。
私は2年前から現在までの帳簿を机に広げ、1枚ずつ確認し始めた。
2年前の1年間、帳簿は誤差もそんなに見受けられず、輸入品と輸入額が安定していた。
やはり問題は1年前からのもの。
見れば見るほどおかしな所が見つかっていく。
それは些細な誤差から始まり、徐々に大きくなっていっている。
「今では堂々と盗んでるって事?嫌な感じ」
眉間に皺が寄るのはこの際見逃してほしい。
年頃の女性の眉間は綺麗な方が見栄えは良いだろうが、これは酷過ぎて話にならない。
自分の眉間を指で揉みほぐしながら不正三昧の1年間の帳簿に目を通した。
「ここからかぁ…」
不正は父達が既に把握済み。
その根源に居るのがルーファス様だという事を証明しなくてはならない。
細かい誤差は確認している暇はないだろうから、ここ最近の目立った物から確認していった。
「これは船の大きさと輸入量がおかしいし、こっちの帳簿は値段が明らかに高額」
気になったものを全て別の紙に書き写していく。
他にもルーファス様へ献上された物リストを読み漁る。
「……………………」
私は集中力は人並み以上にはあると自負している。
欠点は集中すると周りに気を配れない事。
「…シルヴィア様」
「っ!?」
耳元で声が聞こえ、耳を押さえながら勢い良く振り向く。
ランプの灯りで金髪がオレンジ色に輝いているように見えた。
「カっカイン、どうしてここに居るの?」
辺りはもう真っ黒に染まっている。
先程馬車に乗せて帰らせたはずの彼がなぜここに居るのか。
驚かされたドキドキと思わず会えたドキドキ、耳元で囁かれた名前に甘さが含んでいたような気がするドキドキで全身が心臓になったかのように狼狽えていた。
「シルヴィア様がする事をお手伝いしに戻ってきました」
「お父様と帰るって話したじゃない」
動悸を落ち着かせながら屈んで話すカインを見つめてみる。
そうするとカインは自分の鼻を指差しながら苦笑した。
「シルヴィア様は嘘をつくと鼻がピクピク動きます」
「えっ!?」
隠しても意味はないのに両手で勢い良く鼻を隠す。
「嘘よ!そんな事言われたこと無いもの!」
「これは私しか知らない事ですから」
柔らかな笑顔が急に小悪魔に見えてきた。
カインとはいつもなんだかんだで言い負かされるというか、私が丸め込まれる感じなのだ。
「ルーファス様の悪行を申し立てるおつもりですね?」
「そうよ…私は嫁ぎたくもないし足枷にもなりたくないもの」
カインの動向を止めるのを諦めた私は机に向き直って帳簿へ視線を落とす。
「私はいつでもシルヴィア様のお側に」
背中から抱き締めてくるカインからは少し甘酸っぱい柑橘系な匂いがして、治まったはずの私の胸をまたときめかせた。