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ガチャ…
「お嬢様!!」
「カイン、お待たせ」
図書館の様に本棚が所狭しと並んでいて、膨大な紙の束が詰まっている部屋へ入ると、すぐにカインが飛んで来た。
「ご領主様のお話とは何だったのですか?」
私の両肩を掴んで背を屈め、顔を覗き込んでくる。
私好みで素晴らしく整った顔が目の前に。
「落ち着いて座ってから話しましょう」
「すみません」
叱られた犬のようにしょんぼりしながら作業机として使っていた2つの椅子の1つを引いてくれる。
「ありがとう」
椅子に座ると隣にカインも座る。
カインの側に居ると安心して気が抜ける。
「ふぅ…」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、ありがとう」
青い瞳が心配そうに揺れている。
私は向き直り、片手でカインの頬を優しく撫でる。
「シルヴィア様…」
「お父様のお話は私の婚約者が決まったというお話だったのよ」
ビクッとカインの体が震えたと思ったら目が落ちそうな程見開かれる。
いつも笑顔でいる彼のこんな表情はとても珍しい。
少しでも心に焼き付けようと、じっと顔を見つめると、急に机を叩く様に立ち上がった。
「相手は誰だっ!」
これまた珍しく言葉遣いが崩れている。
「第1王子のルーファス様だそうよ」
「ルーファス!?」
「こら、お会いする機会がないからって呼び捨てはダメよ。どこで誰が聞いているか分からないんだから」
「あっす、すみません!」
大きな体を縮こまらせ椅子に座ると私の手を包むように両手で掴み上げる。
「結婚なさるのですか?」
「このままだとそうなるわね。子爵如きが王家の縁談を断る事なんて出来ないし、ルーファス様も並々ならぬ執着が感じられるし」
「執着、ですか?」
「お父様の話だとルーファス様はこの領地の輸入業を手に入れたいみたいなの」
「…なぜですか?」
カインの眉間に深い皺が刻まれていく。
顔が美しい人は眉間の皺でさえ絵になるのか、なんて考えながら無意識に空いてる手でカインの眉間に触れる。
「シルヴィア様…」
「あら、ごめんなさい」
苦笑されたのに気付いてすぐに手を引く。
好きな顔が目の前で色々な表情に変わるのは、しばらく眺めていたくなる。
「ルーファス…様はなぜ輸入業を手に入れたいのですか?」
「ルーファス様は珍しい物が好きな方らしいわ。輸入品を買うならお父様も喜んでたと思うけど、海外の珍しい輸入品を無理矢理献上させるのは日常茶飯事、横流しもあるし極めつけは輸入許可が降りてない物の密輸入と国内ではほとんど見られない褐色の肌や黒髪の女性達を密入国させていると聞いたわ」
「…………」
私の言葉にカインは驚きで固まってしまったようだ。
「お父様もそれを止めようと色々手を尽くしたそうよ。でも止める前に縁談のお話がきた。お父様の考えだと私はお父様達の口を塞ぐ為の人質らしいわ」
「人質と分かっていても?」
「ええ、そうね」
私の答えにカインはゴツンっと机に額をぶつけて俯いた。




