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「ちょっと待った~~」


静かな空間でカインと見つめあっていると気が抜けるような声が響く。

声のした方に顔を向けるといつの間に入ってきたのか部屋の隅に置いてある椅子にシャイロー様が座って手を高々に上げていた。


「なぜ貴方がここに居るのでしょうか」


「子猫ちゃんが泣いてる気がしたから来てみた」


「ひゃうっ」


跳ねるように近付いてきたシャイロー様は私の涙の跡を指で優しく拭ってくれる。

それに驚いて変な声を出して体ごと引くと必然的にカインの方に体を預ける形になった。

腹部に回るカインの腕に心臓が煩く鼓動を早める。


「触らないでください」


「え~俺も子猫ちゃんに告白した~い。好きだよシルヴィア」


カインの不機嫌さを隠さない低い声に全く怯まずに笑顔を向けてくる。

そして視界にはもう一人、真っ赤な顔で涙目になりながらプルプル震えているリーディアさん。


「貴方はお呼びじゃありませんよ」


「結婚してる訳じゃないんだから」


「婚約は同じようなものでしょう」


「本人の同意無しで進めたこと知ってるよ」


「ご両親の了解は得ましたし、シルヴィアにはこれから分かってもらう算段です」


「逃げられたくせに」


またもや言い合いに挟まれる。

先程まで笑顔でカインと言い合いをしていたリーディアさんは置物の如く全く動かなくなった。

カインの腕から逃れ心配になったリーディアさんの所に近寄る。


「リーディアさん大丈夫ですか?」


「……はっ!」


呼吸すらまともに出来ていなかったようで、リーディアさんは私の声に反応するように息を吸った。

目は潤み瑞々しく輝くルビーのようだ。

頬は上気して桃色に色付きどんな男性でも虜にしてしまう危うさが出ている。

私までその魅力に落ちてしまいそうだ。


「うっ……あの…ご気分が優れませんか?」


「だぃじょ……ぶ…ですわ」


明らかに大丈夫ではない。

心配して背中に手を添えながら見るとリーディアさんはシャイロー様を熱い眼差しで見つめているではないか。

そうだ。

リーディアさんはシャイロー様が好きでここまで来た方だった。

好きな人を見の前にして固まってしまうなんて可愛いではないか。


「リーディアさん、私お手伝いします」


カインとシャイロー様が言い合いに夢中なのをいい事にリーディアさんの耳元でコソッと囁く。


「え?」


「リーディアさんの恋のお手伝いをしますから」


小さな声でもリーディアさんにはしっかり届いたようだ。

少し目を見開いた後にそれはそれは可愛らしく笑顔を向けてくれた。


「シルヴィアさん、ありがとうございます」


私はこの可憐な女性が幸せになることを切に願って拳を握り締めた。

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