42
場所を移して私が元々お世話になっていた部屋へと来ていた。
脱いだ筈のドレスが着替えろと言わんばかりにカインの部屋にあって、アンルーシーに報告して怒られるのと王女様かカインに少し手伝ってもらって着るかの選択を迫られる。
アンルーシーに知られていないのも驚いたが王女様が人の着替えを手伝えるのも驚いた。
恐縮しながら王女様にお手伝い頂いて着替えたは良いけど、とても寛げる空気ではない。
「ではまずシルヴィアが逃げた理由を聞かせて頂いてもいいですか?」
3人で部屋に帰って来た時にアンルーシーが用意していってくれたティーセットを前にカインからの尋問が始まった。
2人掛けのソファーに私。隣の1人掛けにカイン。向かいの2人掛けに王女様。
嘘も誤魔化しも通用しないと腹をくくり2人を見渡してから口を開く。
「カインラルフ様が王女様と婚約するという噂を耳にしました。私がここで匿われているのは事情があっての事だし、このままだと子爵家の令嬢如きが邪魔をして隣国との諍いになると…」
「どこぞの侍女が話して居るのを聞いた貴女は自分が居なくなれば丸く収まると思ったのですか?」
話している間に顔が下を向き、カインの言葉に小さく頷く。
「はぁ〜〜……」
とても重苦しく長い溜息を吐いてカインが横に移ってくる。
「お話しましたが、私の婚約者はシルヴィアです。リーディアは確かに私との縁談でここに来ましたが、会った直後に『貴方と結婚する気はありませんから勘違いなさらないで』と言われたのです」
それはかなりキツイ言い方だ。
初めて会った時は大人しそうだったがとても気の強い王女様なのかもしれない。
「当たり前ですわ。私がお慕いしているのはシャイロー様なのです。間違ってもこんな真っ黒な王太子などではございません」
うん、気の強い王女様だ。
「シャイローもずいぶん黒いと思いますが」
「貴方には負けますわ」
2人の間に火花が見える気がします。
「それでは…王女様はカイン…ラルフ様との結婚は考えていなくて、シャイロー様を追い掛けて来たと言う事ですか?」
「リーディアと呼んでシルヴィアさん」
「リ、リーディア様」
「様ではなくてさんがいいですわ。義姉妹になるのですから」
頬を染めたリーディア様…さんは恋する乙女の如く頬を両手で押さえてクネクネしている。
「義姉妹はシャイローを落としてからにしてください」
「だから協力をお願いしてるのではなくて?」
「協力を頼んでる風には見えないですね」
この2人の会話は何でこんなに喧嘩腰なのだろう。
不思議に思いながらカインに目を向ける。
「リーディア…さんのお手伝いはとても良いとは思いますが……その…」
「自分がいる意味が分からないって事ですよね」
「うん」
「それは私がシルヴィアを愛しているからです。私の側から離れる事は諦めて下さい」
サラッとそんな言葉が私の胸を抉った。
これは天使の矢とかそんな生易しい物ではなくて、それこそ大剣でぶっ刺されたような衝撃。
自分が好きになった相手はとても手が届くような人ではなくて、でも諦められなくて、想いが届くなんてことは間違っても起こらないと思っていたのにこのどんでん返し。
感情が追い付いて来なくて言われた言葉を頭の中で繰り返しながらカインを見つめる。
そして驚きのあまり固まっていた顔はそのままに目からは涙が溢れ落ちていった。




