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「うう…降ろして下さい…」


「何で敬語なんですか?」


自分が王太子殿下だという事に慣れていないだけか、分かっていて聞いているのか。

何となく後者な気がする。

それはそこはかとなく感じるカインの怒りというか不機嫌さからくる勘。

それとこの運び方。


「全くちょっと目を離すとこうなんですから」


カインは迷いなくどんどん歩いて行く。

そして見慣れた景色が広かったかと思えば知らない部屋へと入っていく。


「ここ…どこ?」


「今日からここがシルヴィアの寝室兼生活する部屋になります」


サラッと言うカインは私をそれはそれは広い天蓋付きのベッドに下ろすとベッドの柱に紐で私の手を縛り付けた。


「え?」


「うわぁ〜ここお前の寝室じゃん。女の子縛り付けるとかそんな趣味してたとか笑える」


笑えない。

縛られた手首は痛くないのに抜けなくて緩まない。

体重を掛けて引っ張っても抜けない。


「あまり引っ張り過ぎると手首を痛めますよ」


「爽やかに言ってもやってる事下衆いからね〜」


「貴方は黙ってて下さい」


「一緒に来いって言ったのそっちだろ」


そういえば従事の下働きのシャインとカインは物凄く砕けた会話をしている。

その2人の姿がまた既視感。

思い出せそうで思い出せない。


「カインはシャインと知り合いなの?」


「知り合いも何も兄ですから」


「ア…ニ?」


「シャインは遊び歩く為の偽名で本当の名前はシャイロー。第2王子になります」


「シャイロー・イルニ・アバンムーラです!よろしくね子猫ちゃん」


「気安く話し掛けないで下さい」


「俺達デートの約束した仲だから気安くもなるよ」


「は?人の婚約者と勝手にデートしないで下さい」


「えー。理不尽。横暴。鬼。悪魔。鬼畜」


思い出した。

この空気感と会話がある一人を思い出させた。


「マティオン…」


シャイローは喋り方とか軽さとか雰囲気とかがマティオンに似ていたのだ。

だから既視感に襲われていたのかと一人納得する。


「マティオンがどうしたのですか?」


「シャイロー様がマティオンに似てるような気がして…」


「それはそうですよ。マティオンとシャイローは従兄弟で仲良く夜の街を渡り歩いてるくらいですから」


「えーそこまで暴露しちゃう?」


「事実ですから」


「あ、でも子猫ちゃんが私だけを見てってお願いしてくれたらもう君だけしか見ないから」


「寝言は寝て言って下さい」


カインの額に青筋が浮かぶ。

シャイローはマティオンよりももっと手練の軟派なのかもしれない。

繋がれている私の元にカインの隙きをついて近付き、手を握ってくる。


「助けてはあげられないけど、遊びには来てあげるから待っててね」


「触るなっ!」


振り下ろされるカインの拳を難なく避けてシャイローはそのまま部屋から出て行ってしまった。

助けてはくれないんだ。

カインを怒らせるだけ怒らせて居なくなるのは止めてほしい。

まだ青筋が残ったままのカインを見上げてこれからの事が考えられなくなってしまった。

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