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「まずここは私の部屋の隣ということになっています」


最初から引っ掛かる言い方をする。


「シルヴィア様を誘拐したミュルヘとミランディン・アマネクラ男爵、今は只のアマネクラは騎士団に捕獲されました」


ミュルヘは分かるがミランディンという名前にも少しだけ覚えがあるような気がする。

まだズキズキと痛む項に手を当てながら考え込んだのが分かったのか、カインは一瞬言い淀んだ後私を真っ直ぐ見詰めた。


「14年前にもシルヴィア様は誘拐されましたよね?その時の首謀者がミランディン男爵です」


カインの言葉に胸に詰まっていた何かが流れ出たような気がした。


「ん?あの人は幼児愛好家だったと思うのだけど……私はどう頑張っても幼児にはなれないわ」


「今回はアマネクラの計画的犯行ではありません。ミュルヘが計画した人身売買にシルヴィア様が巻き込まれた形になります」


「主犯はミュルヘ?」


「そうなります。ルーファスの信頼と権力という後ろ楯を得て好き勝手した結果がこれです」


溜め息を吐きながら呆れたような表情が見える。

憤りもあるが心底憎めないようなそんな風に感じた。


「ルーファスにも監査の手が伸びるでしょう。いや、もう言い逃れはさせません」


ミュルヘの話をしていた時とは全く違う鬼の様な形相に私の方が怯んでしまう。


「これからは私がこの問題の指揮を取ることになりました」


「しき?」


私の手を優しく掬い上げて両手で包むように握ると意を決したように口を開く。


「私はアバンムーラ王国第3王子。名はカインラルフ・イルニ・アバンムーラ」


「……」


人は何か予期せぬ出来事に遭遇すると思考が停止するように出来ているのでしょう。

頭の中が真っ白になり、ついでに目の前まで白く霞んできます。

そういえば誘拐されていた時に見た夢にカインが出てきたなとこんな時に思い出す。

ご令嬢と仲睦まじいカイン。

それはもしかして予知夢だったのかもしれない。


「大丈夫ですか?」


「は!?しっ失礼いたしました!うぐっ!」


寝ている私に傍らで座っている王子。

今までも知らないでは済まされない誰がどう見たって不敬な態度。

血の気が引いていくのを自分で感じながら体を起こそうとして、痛みに蹲ってしまった。


「今は絶対安静です。もしこれ以上無理をするならベッドに縛り付けますからね」


「は…はい、すみません」


カインの顔が真っ直ぐ見れなくて目が泳ぐ。

今気が付いたがカインの着ている物が上質なものになっている。

巻いた所を見たことがないクラヴァットも上品な光沢があり、髪も艶々煌めいている。


「本当に王子様なの?……ですか?」


「今までの話し方で大丈夫ですよ」


クスッと表情を和らげるカインは身形が貴族のようでも、いつもの雰囲気を纏っている。

貴族どころか王族らしいけどね。


「そうです。それとシルヴィア様はルーファスの婚約者ではなく、私の婚約者としてこの城に滞在してもらうことも決まりました。」


あ、これは私の脳が殴られた時にでも使い物にならなくなった証拠なんだ。

王子であるカインの婚約者になったなんて夢のような話はあり得ない。

私は今度こそ目の前が真っ白になり、そして真っ暗になって気絶した。

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