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建物といっても2階建ての簡素なもので1階に2つの応接室と小さいキッチン、2階に資料室と父の仕事部屋だけ。


父の所領しているここインパレーニュという地域は海に面していて、領主がコロコロ変わる困った土地。

他国からの侵略や密入国に密輸、そして気性が荒い地域の為問題事があり過ぎる。

実りはあるけど出ていくものも多いのですぐに匙を投げてこの地域から手を引いていくのだ。

今の所、父と兄のお陰で上手く回っているので贅沢しなければ貴族として恥ずかしくない体面は保てていると思う。


「シルヴィア様、ようこそお越し下さいました」


室内に入ると父の秘書の一人、ダンが待ち構えていたかのように優しい笑みで迎えてくれた。

父には2人の優秀な秘書がいる。

暗いブラウンの髪をキッチリ撫で付け同色の瞳が温かく柔らかいナイスガイのダンと同じブラウンの髪をサラサラ靡かせる爽やかな息子のジェール。

ダンと父が幼馴染でジェールと兄のマイオンと私は乳兄妹、将来的にはジェールにマイオンの補佐を任せたいと父達は考えてるみたい。


「お父様は視察かしら?」


「いえ、お嬢様をお待ちですよ」


「……私を待ってる?」


机上の仕事も持ち出して現地まで足を運ぶ父が珍しく室内に居るだけでなく、私を待っているという事実に不安が押し寄せる。


「第一応接室でお待ちです。カインはいつものように資料室でお仕事をお願いします」


「私もシルヴィア様とご一緒に…」


「なりません。お仕事をして下さい」


「大丈夫よ、すぐに私もそちらに行くから」


カインのペンだこと剣だこでゴツゴツした大きな手を両手で包むように握りしめて笑いかける。

へにゃんと崩れるカインの顔が私のお気に入りだ。

もう頭を撫で回したくなるのに届かないのが悔やまれる…


「先に仕事始めてます」


「ええ、よろしくね」


カインは11歳の時、父と同じ名前だからと気に入られてどこからか連れて来られた。

兄に任せようとしたら私の方に懐いてしまったという残念なエピソードは今でも父の悩みの種のようだ。

飼い主に見放された犬のようにトボトボと歩いて行く後ろ姿はスラッと長身の男とは思えない程哀愁漂っていた。

苦笑しながら応接室の扉を軽く叩く。


コンッコンッ


「お父様、シルヴィアです」


「入りなさい」


落ち着いた声に促されて扉から中へと足を踏み入れた。


ドンッ!

「ゔっ」


その瞬間物凄い衝撃と拘束が私に襲い掛かってきた。


「私のシルヴィア!会いたかったよ!」


「おっお父様!眼鏡が刺さりますから離してください!!」


「シルヴィア、あーシルヴィアー私の可愛いシルヴィアー!」


私の声など聞こえて居ないのだろう拘束は更に力が加わり、意外と筋肉があり怪力の部類だろう父の腕で走馬灯が見え始めている。

これはヤバイやつだ。


「カインレード様、シルヴィア様が限界でございますよ」


ダンの穏やかな一言で私は三途の川を渡る前に帰ってこられた。

血気盛んな海男達を束ねるのに力技も必要で、父も兄もダンもジェールも細い割には力と筋肉の鍛錬は凄いらしい。

そんな父に絞め殺されたら笑い事では済まない。


「ごめんよシルヴィア!久しぶりに会えたから嬉しくて…ああ、ミリアンヌに似てシルヴィアは本当に綺麗だね、可愛いね」


「お母様とどちらが好きですか?」


「うぐっ!」


仕事をしている父は尊敬の念を集める程の人らしいのだが、私の前ではこの有様。

私の両親は子供の事が大好き過ぎて家族団欒の場では少々気持ち悪くなる。

意地悪を承知で出た私の言葉は思ったより父の心を抉ったようだ。


「シルヴィアは可愛いがミリアンヌも可愛い。ミリアンヌは女神だがシルヴィアは天使だ。シルヴィアは大切だがミリアンヌも大切。ミリアンヌは…」


私の顔を凝視しながらブツブツ呪詛のような独り言が始まってしまった。

私は父の腕から逃れてソファーへ座り、眼鏡を外しながら振り返る。


「お父様、私に何か用事があったと聞きましたが…」


このままでは一向に話が進まない。

話の内容を尋ねた途端、ブツブツ言っていた父が急に泣きそうな顔をし震えながら私に跪いて苦しむように声を出した。


「シルヴィアに縁談なんだよ〜」


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