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目が覚めて視界に知らない天井が見えているのに、まだ夢の中に居るような感覚なのはどうしてだろう。
頭の中がぼんやりしていて体が石のように重い。
目を動かすのですら疲れる。
「シルヴィア様、お目覚めですか?」
ベッド脇から聞こえた声にやっと視線が動かせた。
「カ…イン」
自分でも驚く程声が枯れていた。
喉に引っ掛かる声を出そうと試みるも、スムーズには出てこない。
「無理にお話にならない方が良いと思います。今医師を呼んで来ますね」
速やかに退室していくカインを止める暇も無く、見送った。
その時漸く気付いたが、この部屋はとても豪華だ。
調度品はあまり多くないが、全体的にダークグリーンで纏めてあり落ち着いた雰囲気。
ベッドはフカフカで寝心地は良いし、微かに心地好い香りがする。
カインの香りに似ている。
そんな事に気付いたら安心するのに胸がドキドキしてきた。
落ち着かなくなって視線をさ迷わせていると、慌てたように年配の女性を連れたカインが部屋に入ってきた。
「お待たせしました」
今医師に見られたら早く打つこの鼓動を知られてしまう。
落ち着こうと小さく深呼吸を繰り返した。
「彼女は宮廷の女性を見てくれる医師です」
「アマンダと言います。失礼します」
頭を下げたアマンダは上掛けの中の私の手を探し当てて手首に指を当てる。
静かに脈を診て居たかと思ったら顔を覗かれて目を見られ、足元に移動したかと思ったら上掛けを捲られた。
「こちらも失礼します」
また頭の方へと移動したかと思ったら、項の所に手を差し込まれて何かを探られる。
「う…」
「失礼致しました」
触れられた一部に鈍痛が走り、思わず呻き声が漏れてしまった。
すぐに手を離したアマンダはベッドから離れてカインに向き直る。
「最初に治療を施しました後頭部の打撲以外の外傷は見当たりません。手首と足首は少し赤くなっておりますが、じきに消えると思われます。薬を使われたとのご報告でしたが、そちらの後遺症等は今のところ見受けられませんでした」
「そうか、ご苦労だった」
「ゆっくりお休みください。失礼いたします」
頭を垂れながらカインと話したアマンダは私に笑顔を見せてからお辞儀をして部屋を後にした。
何か違和感がある。
でもそれが何のかが今の頭じゃ考えられない。
困惑しながら答えを求めてカインを見つめる。
「何も分からなくて不安ですか?」
優しい声音に頷くと、カインがベッドの端に腰を掛けて手を握ってくれた。
「そうですね。どこまで記憶にありますか?」
「ミュルヘ…に捕まった」
「そうです。それを私とマティオンが助けました」
「あり…がとう」
「まずは水を飲んで下さい」
声が出ない私の背に手を入れて起こし、座らせてくれたカインが水の入ったグラスを手渡してくれる。
それをゆっくり飲むととてもすっきりした。
思っていたよりも喉が乾いていたらしい私は一気に水を流し込んだ。
私が一息吐いたのを確認してから、カインがゆっくりと話し出した。




