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極力人との接触を避けられて過ごしてきた生活が11歳の誕生日に変わった。

盛大に祝えない誕生日を毎年、教会の者達が密かに祝ってくれている。

その日もささやかな誕生日を祝ってくれていたが、そこに領主として慈善事業していたカインレード様が来た。

優しげな色男、そして雰囲気とは違うガッチリと鍛えられている体、自信に満ち溢れた雰囲気は自分がなりたい人そのものだった。

名前が同じという他愛ない事で気に入られて、引き合わされた彼の子供がマイオンとシルヴィア。

その時には自分が王太子であり、命の危機にあり、自分の感情等の自由が許されていない事を理解していた。

でも諦めきれなった。

今まで無気力だった自分の中で何かが弾けて満たしていく。

何の為に王太子になるのか、何の為に王になるのか。

自分には不要なのに、ただその位置に居るから命が狙われる。

馬鹿げている。

でも彼女の為なら出来る。

いや、したいと思う。

王太子になって彼女を守り、王となって彼女の愛する人達を守る。

それが自分には出来る。

優しく愛に溢れた彼女は見ず知らずでも手を差し伸べるだろう。

自分も彼女に恥じない自分で居たい。

だからこそこの年齢まで生きられたし、これからも努力をしていこうと鼓舞できる。


☆☆☆


コンコン


久しぶりに思い出した昔の出来事に口許が緩んでいるのが分かる。

教会の一角にある質素な部屋の片隅で口許に手をやりながら扉の方へ足を進めた。


「はい、どうぞ」


「邪魔するな」


「失礼します」


近付いて声を掛けると急ぐように扉が開かれる。

赤かった筈の髪を金髪にして靡かせながらマティオンが入ってきた。

いつも笑いながら入ってくる彼が真面目な表情をしていて気持ちが悪い。

そしてその後ろには黒い髪をひっつめにして結び、少しつり上がり気味の目が印象的なシルヴィアの侍女が青い顔をしながら入ってきた。


「何かありましたか?」


二人の表情も雰囲気も明らかにおかしい。

何か嫌な予感がしながらアンルーシーに問いかける。


「あの、シルヴィア様をご存じありませんか?」


「シルヴィア様?居ないのですか?」


「はい。お屋敷にも旦那様の職場にもいらっしゃらなくて…この間お二人で出掛けた際にお召しになっていたドレスが見当たらないのでこちらに来ているのかと」


「で、探してる途中で俺に会って一緒に来たわけ。カインとは会ってないと思うよって伝えたら青い顔をしたから放っておけなくてさ」


「シルヴィア様は仕事以外の外出を嫌います。私にも言わないで出掛ける事なんて今まで無かったのです」


簡素なベージュのワンピースのスカート部分を握り締めながら泣きそうな顔をする。

自分の背にも冷たい汗が伝う。


「あの赤いドレスが無いのは確かですか?」


「はい」


ミュルヘとの取引内容を報告に行った時のシルヴィアを思い出す。

何か焦ったような、それでいて申し訳なさそうな彼女の様子が思い浮かぶ。

しくじった。

自分の話で彼女に火を付けてしまったようだと今さら気付いても遅い。

恐らくミュルヘの元に向かったのだろう。

でも、自分には話が来なかった。

仲介であるマティオンも知らない様子。

これからしなくてはいけない事を頭で整理しながら彼女の無事を祈った。

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