19
外まで問題なく辿り着き、港町まで戻ってきた。
海に面したとても可愛い喫茶店に迷う事無く誘導される。
最初からここの喫茶店がマティオンとの合流場所だったようだ。
「よぉ、順調に事は進んだか?」
花が所々センス良く飾られ、テーブルと椅子は木目の見える木。
装飾されているのはピンクと白のレースリボンや小さなぬいぐるみ。
ターゲットは若い女性だろうと分かりやすい店内だった。
そんな店の奥に似つかわしくない赤毛の男が長い脚を組んで座っていた。
「なぜここにした」
「ここ女の子向けに作られてるからこんな時じゃないと入れないかなって」
「私用で使え。迷惑だ」
「ここのケーキ凄く美味しいんだよ。甘いもの食べて幸せに浸ってる男を見たい女はそうそう居ない」
「私はそんな男性も可愛いと思いますよ?」
二人の会話に口を挟むと、一人は驚いた表情で、一人は微笑みながら私を見た。
「シルヴィア様はお優しいからです。こいつは人を見る目が著しく低下しているのでそういった女性と出会えないのです。日頃の行いのせいですね」
「今、俺の、目の前に、天使が、現れた」
「おい、汚らわしい目でシルヴィア様を見るな」
「見るくらいは良いだろう」
「汚れる」
そんな会話をしながらマティオンの斜め前の椅子を引いてくれた。
「ありがとう」
「紳士だなカインは」
椅子に座ると店の奥から初老のお爺さんが出てきた。
背はピンと真っ直ぐで姿勢が良く、白髪頭はキッチリ撫で付けてあってとても清潔感溢れる男性だ。
「紅茶でございます」
「え、私は頼んでないのだけど…」
「俺が頼んでおいた。話を早く終わらせて解散した方がバレにくいからな」
カインとの会話を楽しんでいた人とは思えない言葉に少し吹き出してしまった。
彼からはカインの事が好きって気持ちが溢れていて、少しでも長く遊んでいたい子供のような雰囲気が隠しきれないでいたから。
「ミュルヘは黒だな。真っ黒だ。ルーファス様とも繋がっているのは間違いない」
「だろうな」
「だが、然るべき場所に出たとしてもあんな上客を売るような真似をするとは思えない」
「後は確かな証拠だけってことだな」
二人が真面目な顔で真面目な話をしているだけ。
なのに違和感が拭えない。
さっきまで仲の良い兄弟のようにじゃれている姿をみていたからかな。
商談にも口を出させてもらえなかった私は既に他人事のような気持ちになってしまっていた。
そして出された香りの良い紅茶を一口飲んで和んでいた。
「後は宜しく頼む」
「え、もう話は終わったの?」
「やはり話を聞いてなかったのですな。静か過ぎると思っていました」
「俺は知ってた。紅茶飲んで肩の力が抜けた顔してたし、可愛かった」
「………」
「わあ!?フォークは人の目に刺すものじゃねえよ!?」
呆れた顔のカインがマティオンが使っていたであろうケーキフォークを掴んでマティオンの眼前に向けた。
驚く程素早い動きで私もマティオンも止めることは出来なかった。
「お前は本当に俺の逆鱗に触れるのが上手い」
「いやいや、カインがシルヴィア様に関することに敏感過ぎるんだろうが!」
「そんなことはない」
「ある」
「ない」
そんなやり取りを穏やかに見守りつつ、今回の潜入捜査は終わりを告げた。




