12
体がとてもポカポカと温かい。
変な緊張も全て溶けて流れていった。
コンコンッ
部屋着に着替えてソファで紅茶を飲んで一息つくと、控えめなノック音がした。
アンルーシーがお菓子か軽食を用意してくれたのかもしれない。
「どうぞ」
扉に声を掛けながら下ろした髪を何気なしに摘んで振ってみる。
扉がゆっくり開く音がして人の気配がした。
「ねぇアンルーシー、やっぱり私これから………え!?」
入浴のお陰で心も体も軽くなった。
これなら何かいい物が見つかりそうな気がしてくる。
善は急げで外出の準備をお願いしようと扉の方へ顔を向けると、視界に入ったのはキラキラ輝く金髪の男性。
カインが少し困ったように微笑んでいた。
「えっと…届け物をしようとしたらここまで通されて…」
普通の未婚女性は男性と二人っきりになるという事はほぼない。
例え何も無かったとしてもそれは証明するのが難しいし、好き勝手な醜聞が囁かれるなんて女性側が傷を負うことになるから。
それなのに、私の周りはカインと二人っきりにする事を推奨している感がある。
現に私室に案内も無く入って来る辺り、侍女達が率先して二人きりにしているのであろう。
「全く職務怠慢だわ」
「あはは…」
カインもわざと二人きりにされているのに気付いているようで、苦笑しながら近くまで歩み寄ってくる。
「これをお渡ししたくて」
「これは?」
差し出された紙袋には紙束が綺麗に収められていた。
「密輸入らしき微かな痕跡らしきものとそれに纏わる商団の詳細です」
紙束を取り出して1枚1枚確認していくと、輸入時の金額や数量の誤差とそれに関わる商団、そこまで携わった人達の名前が事細かに書かれ纏められていた。
「これは…」
「ラムーダ商団の団長補佐、ミュルヘが怪しい動きをしていますね」
「これを集めるの大変だったでしょう?」
何箇所かの商団名が書かれていたが仲介人に必ず出てくる名前に印が付けてある。
私達が探し始める前に父達が探していたはずなのにそこまで辿り着けなかった。
それなのにカインは1日程度でやりとげてしまった。
「貴方凄いのね」
「たまたまですよ」
謙遜するカインには感謝しかない。
これを元にしてルーファス様の悪事を突き止めなければと気合が入る。
バタンッ!
「シルヴィア入るぞ!」
「ノックも無しに入ってから言わないで下さい。まだ許可してませんよ」
歓喜したい気持ちを踏みにじられるように乱暴な騒音と共に兄が入ってきた。
溜息を飲み込みながらも呆れた声で嗜める。
「これを見てもそんな呑気な事を言ってられるのか?」
ズカズカと私の目の前まで歩いて来ると1枚の封筒を押し付けられる。
真っ白な上質の封筒には父宛と書いてあり、剥がされた封蝋を確認すると王家の紋章が押されていた。
凄く嫌な予感がする。
「中を見ても?」
「当たり前だろ!その為に持ってきたんだからな」
父宛の手紙を兄が持って来て私が見るという事がおかしい。
一息吐いてから中の手紙を丁寧に取り出した。
そして見えたのは
『婚約届受理』
の5文字だった。