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俺、猫だけど夏目さんを探しています。  作者: 白野こねこ
俺、猫だけど人間の弟と妹ができました。
17/22

5 俺は逃げられると追いたくなる。

 俺が猫じゃらしによるスポーツに勤しんでいる一方で、元夏目さんの弟はというと、この家に来てからスマートフォンとやらの鉄板をずっといじっていた。指先だけで遊べるアプリというゲームに夢中らしい。


 最初からまったくといっていいほど、俺には近寄ろうとしなかったし、双子のことも訪問直後にちらっと見ただけだ。何のためにわざわざ来たのかよくわからない。


 なのに俺のことは気になるらしく、いつも視線の端で捉えているようなそぶりをみせている。これではまるで初めて元夏目さんと出会った頃のようである。


 俺の貫禄にビビっているのか、それとも猫自体が怖いのか。俺が少しでも近づこうとすると、一定の距離を保ちながら離れていく。


 こうなってくると俺の悪い癖が出る。嫌がっている相手にちょっかいを出したくなってしまうのだ。逃げられると追いたくなる。野良猫ではなくなったとはいえ、狩りの習性が体に染み付いているのだから仕方がない。


 使い魔妹の華麗なる猫じゃらしの誘惑をなんとか振り切ると、俺はソファーの下に潜り込んで様子を見ることにした。


「あれ、どこいったん。今度はかくれんぼかいな」


 壁際で三角座りをしている弟を観察する。ゲームに夢中で鉄板に気を取られているのを確認すると、俺は抜き足差し足で音を立てないようにこっそり足元に近寄った。


 頭をこすりつけた瞬間、弟は「ひっ」と悲鳴のようなものをあげて、人間とは思えないほどのジャンプ力を披露して横へ飛び退いた。さすがは元夏目さんの弟である。脚力の強さは遺伝なのだろうか。


 元夏目さんが笑いをこらえながら言う。

「そんなにビビんなくても大丈夫だよ。この子噛んだりしないから。っていうか、なんでそんなに猫嫌いなんだっけ」


「理由なんぞ……別になか。好かんもんは、好かん」

 弟はムスっとした顔で答える。


 どうやら元夏目さんと同じように面倒臭い男のようだ。


「街ぶらついてくっけん、お金貸して」

 弟の差し出した手をぴしゃりと元夏目さんは叩いた。


「あんたが貸してって言うて、ちゃんと返したことなかろうもん」


 元夏目さんも弟の喋り方につられたのか、ちょっとなまっているようだ。お姉ちゃん風を吹かせているという感じがさらに強まる。


 やはり俺も弟分や妹分にお兄ちゃん風を吹かせるときは、なまったほうが良いのだろうか。だがそもそも猫語が通じない時点で、そんなことを考えても意味がないかもしれない。


「けち臭いこと言うなちゃ。足りんごとなったら旦那さんにもらえばええっちゃろ」


 元夏目さんが弟のほっぺたをつねっている。

「いででで」


「この人は私の旦那さんであって、あんたのお財布やなかと。失礼なこと言うたら承知せんけんね」

「ならもうよか」


 弟は不機嫌そうに言うと、そのまま出て行った。


 やれやれ。弟はまだ学生のようだし、この辺りには慣れていないだろう。一人でぶらつかせるのは危なっかしい。ちょうどパトロールの時間だし、しばらく様子をみてやるか。


 俺は弟の後をついていくことにした。





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