4 俺は遊びのプロを雇いたい。
人間の価値というのは、別に顔の良し悪しだけで決まるわけではないだろうが、得てして人は視力に頼りすぎである。
きっと人間が野良猫のような生活していたら、すぐに危険に巻き込まれて死んでしまうだろう。もっと匂いや音など別の基準を重視したほうが良いと思うのだが、俺たち猫の言葉がわからないような人間には期待するだけ無駄というやつである。
猫なら見た目が綺麗かどうかより、オスなら強いかどうか、メスなら元気な子を産めそうかどうか、そっちのほうがよっぽど大事だ。
目や耳が大きいかとか、尻尾が長いかとか、模様や色がどうかなんてことは、猫同士ならとやかく文句を言われることもない。結局は美猫かどうかなんてことを一番気にしているのは、飼い主のほうだけである。
飼い猫になった俺にしてみれば、目の前の相手を判断するときに見た目なんてのはどうでもいい。一番重要なのは相手が餌をくれるやつであるかどうかだ。次に遊んでくれるかどうか。
その基準で言えば、毎日ご飯をくれる元夏目さんたちは最も重要であるし、今回オヤツを持ってきてくれた上に、たっぷり遊んでくれた使い魔妹もそれなりに重要である。
だから俺に評価されているということを、もう少し誇りに思っても良いぞと言うつもりでニャーと鳴いたが、たぶん伝わっていない。
使い魔妹は双子妹のそばに近寄って、芝居がかった口調で言う。
「あんたは私みたいになったらあかんよ。これから私が目指すんは孤独な修羅の道やからな」
ある意味、仏頂面同盟な双子妹の未来予想図がここにあると言っても過言ではない。だとすれば別れたとはいえ彼氏がいたという事実があるのだから、そんなに双子妹の未来を案じる必要はないのかもしれないのでは……などと思っていたのに、結局は孤独な道を選ぶなどと言われると心配になってくる。
遊び当番に任命したいほどの腕を持った女が不幸になるのも困る。できればもう少し幸せになるために頑張ってくれないだろうか。そうでないと俺の妹分の未来が心配になるではないか。
「ほなけど、将来あんたがいくら頑張っても、恋も仕事も手にはいらんかったら、私のマネージャーにしてあげるで」
「おいやめろ。まだハイハイもできない相手に、変な勧誘しないでくれよ」
兄の使い魔にたしなめられている。
まったくだ。この双子は俺のしもべにする予定なのだ。いくらオヤツをくれて遊んでくれた相手とはいえ、それは譲れない。
双子のおしめを替えながら、使い魔の男は言った。
「そのピアスはまだしてるんだな。二人のイニシャルが入ってるやつだろ」
使い魔妹の耳には、小さなギターとイニシャルとやらがモチーフとなっている飾りが揺れている。
「……高かったから、もったいないしな」
「本当に嫌いになったんなら外すだろ、普通は」
妹はムスッとした表情をしている。仏頂面がますます怖いことになっているが、大丈夫だろうか。
「もう一度ちゃんと話したほうがいいんじゃないのか」
「別にええねん、あんなやつ」
妹は鬱憤を晴らすように、再び猫じゃらしを拾うと、俺を誘惑するかのように動かしまくった。
最初は無視するつもりだったのに、気がつくと俺はキャットタワーから降りて、また夢中になって追いかけていた。まるで棒踊りをやってるような感じに自由自在に操られているのはわかっていたが、まったくもってやめられない。
やばい。楽しい。この遊び担当はプロである。ぜひ雇いたい。猫缶いくつ分なら契約してくれるのだろうか。
だが残念ながら言葉は通じないので、いくら年棒契約に思いをはせたところで、この願いが叶う可能性はゼロである。悩んでもしょうがない。俺はとりあえず今は目の前の猫じゃらしを堪能することにした。




