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俺、猫だけど夏目さんを探しています。  作者: 白野こねこ
俺、猫だけど夏目さんを探しています。
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1 俺の餌やり当番が今日も来ない。

 俺は猫である。名前はあった気がするけれど忘れてしまったので今はない。

 五年ぐらい前からこの街に住んでいる。


 ここに来る前は一度だけ人に飼われていたこともあるが、今ではもう自由気ままな野良猫生活に慣れてしまった。最近はやたらと猫を見つけると近寄ってくる人間が増えたので退屈もしない。


 たまに物騒な輩もいるが目を見ればわかる。

 本当にヤバい奴には近づかないことが大事だ。


 それができない奴は死ぬだけである。自由と引き換えに危険を手に入れたのだから仕方がない。スリリングな毎日を楽しめる奴が勝ちだ。


 いつも寝床にしているのは公園の花壇裏である。公園といっても歩道に毛が生えたような所で細長いヘンテコな地形をしている。


 先に住んでいた長老の話によれば、元々は線路だった場所を潰して作られたものらしい。駅前につながっているので人間がよく通る。おかげで餌がもらいやすい。なかなかの穴場である。


 一つだけ不満をあげるなら、時々地面の下からゴゴーっと音がすることだろうか。もしかしたら線路がなくなったことで、行き場をなくした電車の幽霊が悪さをしているのかもしれないと長老が言っていた。


 幽霊のくせに夜より昼にうるさいというのは謎だが、俺は幽霊なんてものは信じていないから聞こえない振りをしてやりすごすだけだ。


 ふわりと目の前に桜色の花びらが降ってきた。今年も桜が綺麗に咲いたようである。近所に咲いている桜の花びらがときおり風に運ばれてくる。風にあおられ舞い散る姿は優雅だが、花びらは食べても美味くない。


 どうせ空から降るならキャットフードか猫缶のほうがよっぽど嬉しい。もしそんな奇跡が起こるなら猫踊りでもなんでもしてやりたいぐらいである。


 空を見上げてみるが残念ながらおいしいものは落ちてきそうにない。雲ひとつない青空が広がっている。しばらく寒い日が続いていたが今日は暖かい。日向ぼっこをするには最適の陽気である。


 だがこのまま昼寝をする訳にはいかない。

 ちょっとばかし俺は忙しいのだ。


 なぜなら俺は夏目さんを探すことにしたからだ。


 夏目さんというのは時々餌を持ってくる人間の女である。本来なら人間ごときにさん付けなどしないのだが、この女だけは別格だ。


 五回以上この俺の餌やり当番を続けるだけの根性があったので、餌をくれる人間から夏目になり、無事に冬を越して春を迎えられた記念に夏目から夏目さんに昇格した。

 ほかの女には触らせないところだって、我慢して触らせる程度には敬意を払っている。


 その夏目さんだが、最近姿を見せない。


 最後に来たのは一週間前だ。


 いつもの餌とはレベルが違うとんでもなく美味しそうな餌を持ってきて、最初はニコニコしていたはずがいつの間にか泣きだした。


 てっきり高価な餌を買ったことを後悔して、懐が寂しくなったことを悲しんでいるのだろうかと思っていたがなんだか違うようである。


 その日からもう一週間も俺のところに来ていない。もちろん俺に貢ぐ人間の女は他にもいるので、しばらく夏目さんがこなかったところで餓死するなんてこともない。


 だがこれまで二、三日こないことはあっても、さすがに一週間というのはなかった。何か理由があったとしても、俺の餌やり当番を何の断りもなく途中で放棄するなどけしからん。


 よって俺は夏目さんを探すことにした。


 致し方ない理由がある場合は考えてやってもいいが、ただの怠惰で餌やり当番を忘れているのだとしたら徹底的にお仕置きをしてやる。猫パンチと猫キックの連打は覚悟しておいてもらいたいものである。


 とはいえ勢いで探すと宣言してみたものの、よく考えてみると俺は夏目さんの家も知らないし、必ずいる場所も知らない。


 だがこれまで街中で夏目さんを見かけたことは何度もある。

 この街に住んでいることは間違いない。


 とりあえず手始めに、俺は今まで夏目さんと遭遇した地点を順番に回ってみることにした。





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