第9話 昔話…およそ15年前の出来事
その昔、世界の大規模破壊があった。
この地下施設は研究者達のシェルターで、世界が一変してしまっても、彼らは変わらず研究を続けていた。
世界の覇権を握る、生物兵器の開発。
研究者達にとっては、世界の覇権などは、どうでもいい。
ただ目指す研究を達成し、最高傑作を生みだす事だけが目的だった。
それは常軌を逸していたが、集団でいると盲目になるものだ。
”超能力”と呼ばれる力はテクノロジーで解明され、遺伝子に手を加える事で、人為的に生み出すことが可能なのは判っていた。
研究者達はこれを利用して、自らの意思を持たない、命令だけを遂行する――
多能力高出力……複数の超能力を同時に使いこなし、強力な威力を持つ。
夢の……生物兵器開発を、目指していた。
しかし無理に遺伝子を弄った生命体は弱く、なかなか一個体として成り立たず、時間だけを浪費して……最近ようやく成果を見始めたばかりだ。
「リース! ここに入ってはいけないと言っただろう!」
透明な筒のようなものが並ぶ、最深部の研究施設に、少年は迷い込んでいた。
いや、本当はこっそり潜り込んだのだ。
「仕方がない、儂の権限で見せてやろう。お前もゆくゆくは研究者になるのだ。これも勉強だ」
そう言って、白髪の老人は少年を率いた。
進んで行くと、ガラスのように透明な壁の向こう側の部屋に、赤ん坊が見えた。
少年の祖父である老人は、少年の目の高さに腰を落として、指をさして言った。
「ようやく我々の研究が花を咲いたのだ。見ろ、あれが我々の作り出した、生物兵器だ」
だがリースと呼ばれた少年には、ただの赤ん坊にしか見えなかった。
「これからだ。ふふふ……これからが、楽しみなんだよ」
しかし研究は失敗ではなかったが、成功でもなかった。
研究者の目指すクオリティには、程遠かったのだ。
――研究者達は、更なる技術を駆使して、作り出す。
理想の、生物兵器を――
リースには、母親はいなかった。
父と祖父だけの、男やもめである。
しかも父も祖父も研究者で、常に没頭しており、家庭などあったものではない。
地下施設全体が研究者で構成されていて、温かみなど、なかった。
当然リースも冷めた性格をしていて、将来は皆と同じ研究者と言われ勉強をして来たが、それもつまらなく感じていた。
たまに廊下ですれ違ったり、食堂で一緒になる、リーダーの妻、サブリーダー。
彼女はとても優しく、いつも笑顔でリースに話しかけてくれた。
もしも母親がいたなら、こんな感じなのだろうか……と、その時だけはリースも笑顔を見せていた。
過去話…導入編です。
ちょっとキリが悪かったので、短いですが今回はここまで。
次回は本題に入って行きます。
リース=リーダーの本名。