第8話 大型軍事基地
時は、僅かに遡る。
一年も前ではない……ほんの少し前の、出来事。
精鋭部隊は、いつものように作戦行動を起こしていた。
今回は極秘任務で、精鋭部隊でも選りすぐりの少数メンバーだ。
千人規模の大型軍事基地情報を入手した。
人類の生存をも脅かす、生体兵器を作っているという。
今回の任務は、真相究明、及び生体兵器を確認した場合の殲滅、基地の破壊、製作者の殺害……だ。
大型軍事基地は規模が大きいせいか、戦闘員はまばらで厳重態勢ではない。
警備も、思ったより手薄だ。
あまり敵からの脅威を、考えてはいないようだった。
精鋭部隊は気付かれずに忍び込む事に、成功する。
侵入後は基本単独行動で、割り当てられた部分を調査、確認していく。
探査能力があるユウも、勿論この作戦に参加していた。
――広い居住区……大勢の一般市民。
研究者は多いが、非戦闘員だらけだ。
「こんな所、よく今まで生き延びられたな……」
四六時中、襲撃を受けている地下施設の彼らから見ると、あまりにも無防備だった。
しかし研究者が異常なまでに多い事から、新兵器があっても、おかしくはない。
ユウは、研究設備が並ぶ部屋へ、辿り着いた。
壁一面に機械が立ち並び、小さなガラスの容器が散乱している。
探査能力で調べていくと、壁の奥へ隠すようにして、厳重なロックが掛けられた部屋をみつけた。
瞬間移動なら、ロックなど関係がない。
……その部屋は、大きく広く、白かった。
たくさん並ぶ、天井まで届く、縦長の透明な容器の中には……
なにかが、ひとつずつ入っていた。
――ユウは、目を見開いた。
胎児だ。
いや……
まだ胎児にもなっていない、ようやく人の形をし始めたモノが……
透明な縦長の容器に、ひとつずつ入っているのだ。
生命は感じられなかった。
――全部、死んでいるのだ。
「…………」
ユウは動きを止め、命無き、人の形をし始めていたモノを凝視する。
驚愕の表情のまま……目を離せないで、いた。
突然、閃光が基地を覆い、大爆発を起こした。
精鋭部隊は強力な防御結界を張っていた為、全員、無事だった。
だが何の前触れもなく、突然起きた、この事態に面食らっており、状況を把握出来ずにいた。
すると大爆発の中心と思われるクレーターの底に、気を失ったユウをみつけた。
即座に、ユウの仕業だと気付く。
リーダーは意識のないユウを保護し、跡形もなくなった大型軍事基地を後にした。
◆
――ユウが、目を覚ます。
地下施設内の医務室だ。
異常がないか、検査をした跡があった。
連絡を受けたリーダーと、親衛隊がやってくる。
ベッドの上で身を起こして、ぼんやりとしているユウに、リーダーが質問をした。
「何を見た?」
その言葉に反応して、先程見た光景が脳裏に浮かんで、ユウは目を見開いた。
そして再び、沈んだ暗い顔をする。
リーダーは強力な精神感応力を持っていて、このほんの僅かな瞬間に、何もかも捉えていた。
ユウの脳裏に浮かんだ光景を、そのままリーダーも視たのだ。
――やはり、情報は間違いなかった。
あの大型軍事基地は、生体兵器を作っていたのだ。
ユウが見た映像から察するに、失敗続きで成功はしていなかったようだが。
結果的に、作戦は遂行され、目的も達した。
だが今、ユウを暗く沈んだ気持ちにさせている理由は、見た物そのものではない。
あの光景を見た瞬間、フラッシュバックした。
……ユウは、思い出したのだ。
俯いて、リーダーからは表情が見えないユウが、ようやく言葉を絞り出した。
「……僕も……」
僅かな時が、とても長く感じられた。
重く、暗い空気……。
リーダーにはユウが言いたい事も、何もかもが判っているようだった。
リーダーは一度、目を閉じると――
俯いたままのユウの頭をポンと軽く叩き、医務室を出て行こうとする。
背中を向けたまま、片手で合図を送った。
「俺の部屋へ来い。良い機会だ、昔話をしてやる」
今回のエピソードは、5話構成です。
更に過去の話へと入って行きます。