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第72話 おかえり

ゴードンは部屋のベッドの上で、一人佇む――……。

胡座あぐらをかいて座り、部屋の入り口側をぼんやり見ていた。


奥のベッドがゴードン、手前がユウ……。

元々ユウの部屋だったこの場所へ、ゴードンが押し掛けるようにやってきた。

ユウの承諾もなしにいきなり……申請が通ったのを良い事に。


驚くだけで、ユウはなにも言わなかった。

それが承諾の証に見えて居着いてしまった。

本当のところは、ユウはどう思っていたのか判らない……。


ただ……傍にいたかった。

もっと知りたかった。もっと仲良くなりたかった。


ユウは、いつも一人でいて喋りもしなくて、友達もレイカしかいなくて……不思議だった。ゴードンと同い年なのに、精鋭部隊なんて誰もが憧れる実動部隊最高峰にいるのに……どうして一人なのかなって。


知れば知る程もっと知りたくなって……友達がいないなら、自分が…………親友になりたい……そう、思った。


「……なれたじゃないか……」


誰もいない部屋で、ゴードンは独り言を言う。

言葉は空虚に消えていき、本当に親友になれたのかさえ疑問になってきた。

ゴードンは何度もユウへ向けて親友発言をしているが、ユウから言葉として聞いた事は一度もない。


こんな時、ユウの無口具合は恨めしくなる。

レイカがユウからの好意を疑った事があったが、今は気持ちがよく判る。



謹慎三日間……あの時は、いつものユウではなかった。

心を開いて、いつも言わない事までなんでも話してくれて……あれがユウの本当の姿なのかと……思った。


嬉しかった。

誰にも見せない姿を、ゴードンだけに見せてくれて。

楽しかった……ふたりだけで過ごした三日間……。


綺麗に整えられたユウのベッドへ視線を送る。

――もう、ここでユウが寝る事はないんだ……。


この部屋に帰って来る事は、ないんだ――……。



少し寂しそうに、軽く俯いてゴードンは笑った。

不思議だな……何故、笑うんだろう。

本当は寂しいのに……哀しいのに……。


あの時のユウもそうだった。

大切な人を守りたくて戦っているのに、戦っているその姿の片鱗を……殺人者の目をしたユウを見て、レイカが怯えてしまった。


きっとユウが一番守りたい人はレイカな筈なのに……そのレイカは今、ユウが怖くて怖くて、病んでしまっている。それを知って……ユウは苦笑したんだ。


――笑ったんだ……レイカが叫んでいる声が、怖くて聞けないって。


本当に辛かったり哀しかったりすると、人って笑ってしまうものなのかもしれない。ふと……そんな風に思って、ゴードンは切ない瞳をして微笑んだ。


……何を言っているんだろう。


ユウは死んだ訳じゃない。

一時極めて危険だったけど、今は元気に動いている。

先程もリーダーと喧嘩までしていた位だ。

今迄と少し違っている気がするけど……とにかく元気になったのは嬉しい限りだ。



そう……死んだ訳じゃない。

ただ……この部屋へ、もう戻っては来ないだけなんだ――……。



「ちゃんと帰って来いよって……言ったのにな……」


生きて戻ると――本当はしたかどうか判らない約束を、ゴードンは思い出す。

その約束は守ってくれた。ゴードンが勝手にしたと思っている約束を――……。


だけど、もうこの部屋へは戻って来ないのなら……”帰って来た”事にはならない気がした。

この部屋で、もう二人で過ごす事はないのだと……もう二度と、あの楽しかった日々が訪れる事はないのだと……そう、考えると寂しくて仕方がなくなった。


誰もいない――ゴードンしかいない二人部屋……。


冷たく、広く感じた。

本来いる筈の……本来の部屋主を失ったこの部屋は、からっぽで虚しい喪失感で溢れていた。そこにいるゴードンは、呼ばれもしないで居るだけの……必要のない存在にすら思えてくる。


この部屋に来なければ、こんな思いはしなかっただろう。

だけど同時に、あの楽しかった三日間も、ユウとこの部屋で過ごした日々の思い出もなかっただろう……。


どこを後悔すれば良いのか判らない。

ただ寂しくて……死んだ訳じゃない、生きているのだからと繰り返す。

それでも晴れない思いの中で、ゴードンは眠る……もう、起きても誰もいない、この部屋で――……。




「……ん……」


いつもより早く目が覚めた。

早朝も良い所だ……こんな時間に目を覚ましても、何もする事がない。

ぼんやりと天井をみつめ、寂しい気持ちでゴードンは寝がえりをうつ。


「え……!?」


目を見張るように見開いた。

寝返りをうって入り口側を向いた、その目に映ったのは……ユウのベッドに、ユウがいつものように眠っていた。


「な……なんでいるの……!?」


驚きの声は大きなものとなり、その声に気付いてユウが目を覚ます。


「……ん……おはよ……」


とてもとても眠そうに、目を擦りながらユウは身を起こす。

全然寝たりないように……非常にだるそうにしながら。


「昨夜は遅くまで執務室でサブリーダーの仕事の説明があってさ……。医務室からはまだ無理するなって言われているのに……全然お構いなしだよ……」


「……え? そ、そうなんだ……いや、てか……なんでいるの……!?」


ユウのベッドの傍までやって来て立ち尽くすゴードンを、ユウはベッドの上に座って見上げる。困惑した驚きの表情でゴードンは、ユウを見ていた。


「部屋……執務室に、変わったんだろ……!?」

「……戻って来たら、だめ?」


「……え……!?」


ゴードンへ伺うような目をしながら、ユウはゴードンをみつめる。

この部屋へ戻って来るのが当然のように……それを咎められて、不思議そうにしている。


……え……あれ? おかしいな……この地下施設の”掟”だとか言ってなかったっけ……?


リーダーですら変える事が出来ない”掟”だと言っていたような気がするのに、ユウは従う気が全くない。ゴードンは困惑しながら……ユウがもう二度とこの部屋へ戻ってくる事はないんだと、哀しんでいた昨日を思い出す。


「……え? いや……全然。むしろ……」

「リーダーのイビキが酷くてさぁ……全然寝られないんだよ。なんであんなに大音量なの」


「……え? ……そんなに?」

「執務室にある物を使ってリーダーとの間に壁を作ってみたけど、全然ダメなんだよ……煩過うるさすぎて寝られやしない」


一応”掟”に従ってリーダーと同室で寝る事を試みたユウだったが、大音量のイビキに途方に暮れて、結局は元の自分の部屋へ戻って寝る事を選択した。

……もう煩くて敵わなくて、このままでは寝不足になってしまうと判断したのだ。


不満そうな顔をして、ユウはもう一度伺うようにゴードンへ視線を向ける。

目と目が合って、暫く無言でみつめあった。



……こんなの、今日だけかもしれない。……でも……それでも……。



ゴードンはニパッと笑って、太陽のような笑顔を見せて言った。


「おかえり……ユウ……!」


帰って来てくれた。

ちゃんと……約束を守って、ユウは帰って来てくれたんだ――……!!







ユウが死んでしまった場合の別の世界線――パラレルワールド版を書きました。

「TS異世界転生版」……気が向いたら、読んでみてくださいね。

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