表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/89

第57話 過去・2年前 ユウの日常

『精鋭部隊、帰還します』


毎日のように鳴り響く警報、アナウンス……。

どれ程の危険が”外”にはあるのだろう。


そこにいた筈の、見慣れた顔も消えていく。

精鋭部隊の制服を着た大人が、いつの間にか一人減り、二人減り…三人減り……。

そして新たな顔が、また同じ制服を着ている。

入れ替わりが激しい。……それは、命を落として帰って来ない者の補充。

それでも、人は憧れる。

遠方外部遠征が唯一可能な、実動部隊の最高峰……”精鋭部隊”に。


「わ~い、ユウさま~!」


6歳になったユウへ、同じ位か、もっと小さな子供達がまとわりつく。

いつも子供達が、生の精鋭部隊を見ようと待っている通路の分岐路だ。

勿論目当ては、年も近いか同じなのに、憧れの精鋭部隊に所属しているユウだ。


「汚れているから、触っちゃ、だめだよ」


いつもと同じ台詞をユウは言う。

もう知識として、外の汚染は洗い流されている事は知っている。

それでも、やはり汚れている事には違いがない。


子供達は頷いて、ユウの指示に従う。


子供達の憧れの目。きらきらとした曇りのない希望の瞳。

ユウは小さく微笑んで、それを見る。

既に体験する事なく失った……その瞳を、ユウは逆に憧れる。

何も知らないからこその、無邪気な瞳……。



「ねぇ……何度も言ってるけど、”さま”をつけるの、やめて?」


「なんで~? ユウさまは、ユウさまだよ!」

「僕らの憧れなんだもん、呼び捨てなんて、出来ないよ!」


囲まれているのに、こんなに近くにいるのに、どうしても遠く感じる。

それは”憧れ”のせい……特別視のせい。


「ん……と……」


少し恥ずかしそうに、ユウは切り出す。


「お友達に……なって、欲しいんだ……だから」


最後まで言う前に、小さな子供達は笑い出した。


「ユウさま、今の可愛い~! ユウさまとお友達になれたら、自慢しちゃう!」

「憧れの精鋭部隊にいるユウさまと、お友達! もうドキドキしちゃう!」


「……それなら」


「恥ずかしくて、そんな事できないよ~!」

「ユウさまは、みんなのユウさまだもん! 怒られちゃうよ!」


「……誰に?」


「みんなにだよ~! こうやってお話したの話すのだって、羨まし過ぎて苛められる事もあるんだよ~!」

「でも、ユウさま大好きだから、いつもこうやって会いに来ちゃう!」

「これだけでもう大満足! お友達なんて……もう、恥ずかしくて!」


転がりそうな勢いで、きゃあきゃあと高揚した声を出す子供達。

だけど「お友達に」というユウの申し出は、一人として受け入れて貰えなさそうだ。


再び分岐路があり、帰還した精鋭部隊の面々は、それぞれの部屋へと帰っていく。


「またね~ユウさま!」


満足した子供達は、ユウから離れていく。

たったこれだけの間柄。

”ユウ”ではなく、”精鋭部隊の一員”として、物珍しく憧れなだけの存在。


ユウは微笑んで、軽く手を振って子供達と別れを告げる。


同じ年の子供も、ユウより大きい年上の子供も、大人でさえ、ユウを”様”付けで呼ぶ。

何度やめてほしいと言ったか、もう判らない。

誰が言い出したのか……もはや定着してしまって、変える事がない。

それがまた、ユウには距離を置かれているようで、寂しさを感じた。



ユウを”様”付けで呼ぶ理由は、様々だ。

憧れ……小さな子供なのに、精鋭部隊に所属しているその現実に対する、畏怖……それに見合うだけの実力……部隊随一の、能力による驚異的な殺傷破壊力。


実動部隊でも、一部にしか知られていない殺害数の多さ。

外部で自然とつけられた、”小さな悪魔”の二つ名……。


6歳の子供の現実としては、有り得ない事ばかり…………。




部屋へ戻ると、入り口近くにある小さな白いダイニングテーブルに、レイカが肘をついてクダを巻いていた。


「おっそ~い! せっかく帰って来たと思ってすぐ来たのに! 何やってたの、ユウ」


この小さく可愛い白いダイニングテーブルは、レイカが勝手に発注し、ここに置いたものだ。

あまりにも何もないユウの部屋に、少しでも生活感が欲しくて……レイカの居場所が欲しくて、ユウの承諾もなしに勝手に置いた。


乙女チックな繊細な模様が施された、小さく白いダイニングテーブル。

初めて見た時は驚いていたが、ユウは何も言わなかった。

そのまま、ここにある。生活の一部として……ユウの私物として。


帰還後の汚れを落とすシャワーから出て、洗ってある綺麗な制服に着替える。

もう、最初の頃のだぶだぶの制服ではない、ユウ専用の子供用の制服。

きちんとあつらえた、ピッタリの精鋭部隊の制服だ。


袖のボタンを止めながら出て来ると、レイカが一人で喋っていた。


「……それでね、ゴードンが言うのよ。俺、大人になったら絶対、精鋭部隊に入るんだ! 男なら夢はでっかい方がいいぜ! ……とかね。聞いてる? ユウ」


ユウでは知り得ない子供達の情報を、レイカはクダを巻くように毎日喋りに来る。

戦場という非日常が当たり前になってしまっているユウを、普通の子供と同じ日常に少しでも留めたくて……レイカ以外友達がいない寂しさを、少しでも紛らわせたくて。


ユウの、唯一の日常……レイカ。



「聞いてるよ」



ユウは微笑んで応える。

本当は、いつも大して聞いてなんかいないのに。







そして……第1話へ。

ここから2年間、大きく変わらず戦いの日々が続きます。

その間に、ユウは無口で無愛想になるわ、レイカは段々子供っぽくなっていくわ……。


次回からは通常の時間へ戻っていきます。

8歳のユウ、12歳のレイカ……第53話の後の時間へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、感想、評価、など。是非、皆様の声をお聞かせ下さい。
レビューを頂いたら、天にも昇るほど嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ