第5話 対戦
世代、という区切りがある。
大きく分けて「旧世代」「新世代」だ。
「旧世代」は”超能力”と呼ばれる能力を持たない世代。
「新世代」は、「旧世代」の子供または孫、ひ孫に当たる、能力発現が多く見られる世代だ。
世界の大規模破壊があったのは、それほど昔ではない。
生き残りが「旧世代」と呼ばれるのだから。
そして細かく分けると「新世代」を、『第一世代』『第二世代』と続く名称がある。
後になればなる程、能力発現率は高く、寿命は短い。
生身では、外気の中で一日と生きられない酷い汚染の中で、生き延びる為に得た能力は、身体に負担をかけ――
寿命と引き換えにするなど、皮肉な話だった。
この地下施設は、大規模破壊を生き延びたシェルターでもある。
生きるのに必要な設備は勿論、失われた文明も数多く残り、更にはその後の人類発展の為に、研究設備まである。
ここまで揃っているのは、珍しい。
とはいっても、既に機能をしていない部分も多々あるのだが……。
居住区より、ずっと地下に「トレーニング室」がある。
誰でも使える一般向けとは違い、戦闘に参加する”実動部隊”しか使えない。
天井が高く面積もある広間は、多少の模擬能力戦を行っても、ビクともしない頑丈な作りだ。
同時に様々な教育プログラムがあり、任意に受けられる。
その中の一室が、異様な賑わいを見せていた。
リーダー対ユウ。
リーダーの気紛れで行われる、この対戦は人気のカードだ。
身体機能では部隊最強を誇るリーダーと、能力攻撃による高い殲滅力をもつユウとでは、対極過ぎて面白い。
勿論こんな二人が本気でやりあえば死闘になってしまう。
そうならないよう考慮して、様々な縛りを設定するのだ。
歓声が、沸き上がる。
一戦目はユウの勝ち。
「くっそ~……」
汗を拭きながら、悔しそうにリーダーはユウを睨み付けた。
大抵は、このパターンだ。
ユウは瞬間移動を含めた異常なスピードで、翻弄し虚を突いて倒す。
対するリーダーは、微妙にユウのスピードには、ついていけない。
しかし回数を重ねると、当然の如くスピードは落ち、スタミナの化け物のようなリーダーの独壇場になる。
十回程リーダーは勝つと満足して、試合終了。
打ち身どころか、かなりの怪我を負ったユウを回復部隊が治癒する。
これも訓練のうちだ。
傍で見ていた親衛隊が、苦笑して呟く。
「相変わらず、大人げないですね」
「勝つまで、やりますしね」
ようやく怪我を治し終えたユウに、リーダーがタオルを投げた。
二人共、流石に汗だくだ。
「強くなったじゃないか」
「よく言うよ、ボコボコにしておいて……」
二人の対戦を観戦していた、第三部隊所属の者達が興奮気味に話していた。
「あ~、良いもの見たな~! 我が部隊、最強リーダーと、未来のリーダー候補!」
「滅多に見られるものじゃないしな。早起きは、するもんだな!」
噂話は気楽だ。
これだけ差があっても、”英雄”の名をもつユウに対しての評価は常に高く、誰が言い出したのか”未来のリーダー候補”なんて、尾ひれまで付いている。
噂話に何を言っても無駄な為、ユウは何も言わない。
勿論”英雄”の名も、噂話による二つ名なのだが。
「なぁ……、アレだけど」
噂話をする第三部隊の者達を見ながら、リーダーが言った。
ユウは、背の高いリーダーを見上げる。
「お前、サブリーダーなんねぇ?」
「やだ」
即答で返された。
「お前な……普通は、ふたつ返事だぞ?」
「やだ」
一応ふたつ返事をしているが、”嫌だ”である。
「…………。この地下施設の掟、知ってんだろ? リーダーもサブリーダーも指名制だ。断れねぇ」
「やだ!」
「どうせそんな事言って、仕事増やす気だろ! 僕みたいな子供より、大人がいっぱいいるじゃないか!」
そう言うと、ユウは全速力で走り去ってしまった。
「本気ですか?」
親衛隊の男性が、リーダーの傍へ来て、聞く。
「本気だよ、年齢は関係ねぇ。有能な奴を傍に置く。当然だろう?」
ユウが部屋へ戻ると、いつも通りレイカが、クダを巻いていた。
「やっと帰って来た~! もうっ、待っていたんだから!」
レイカの他愛ない話が始まる。
いつもの事なので、ユウは気にせずシャワーへ入り汗を流す。
着替えて出てくると、やっぱりずっと喋っている。
「ちょっと~聞いてる?」
「聞いてるよ」
ちょっぴり苦笑する。この他愛のなさが安心する。
そしていつも通り、レイカの終わらない話を聞きながら、食堂へ行く。
食堂では、やはりいつも通り子供達がたむろっていて、その中心へレイカと共に導かれる。
そんな日常を、突然、覆された。
ばん! と叩きつけるように、ユウの目の前に、封書が置かれた。
”果たし状”
子供達の輪を割って入って来たのは、ユウと同年代の男の子だった。
金髪で、負けず嫌いな顔をしている。
そしてビシッとユウに指を突き付けて、「勝負だ!」と言った。
また盛り盛りしてみました。
定番です。
この辺で明るい話を入れたくなりました。