第43話 答え合わせ
地下施設内にアナウンスが入り、リーダー、親衛隊、精鋭部隊、随伴の料理体験部隊が帰って来た。
料理体験部隊にとって、貴重な体験の締め括りは――
いつか実動部隊になった時を連想し、夢を膨らますには、充分な……この通路。
いつも待ち伏せして見ているのとは、逆の方向から歩いて行く。
感動も、ひとしおだ。
通路には、幼い子供達が待っていた。
「おかえりなさ~い!」
子供達はいつもとは違い、レイカとハルカに走り寄った。
「ねぇねぇ、外の世界って、どんなだった?」
「晴天の稲妻さんって、どんな人達だった? どんな所だった?」
「料理、どんなの作ったの? 教えて教えて!」
「作ったのは、お菓子だよ~。作り方のレシピを貰って来たから、あとで一緒に作ろうね!」
「わ~い!」
レイカは、子供達を纏めるのが、とても上手かった。
通路が分かれ、それぞれの部屋へ戻って行く。
「ユウ、後で俺の所へ来い」
一言告げて去って行くリーダーを、ユウは無言で見ていた。
そのユウとリーダーを、少し後ろから見ていたゴードンは……渋い顔をして、口に手をあて、誰が見ても判るほど慌てていた。
ああ……ヤバイ。
一時、思いっきりリーダーに盾突いていたんだ。
ただで済む訳はない。
しかも、成功したから良いが、
明らかにユウが、今回の作戦”料理体験”を、邪魔していた。
ゴードンに気が付いて、ユウが振り向く。
無言のまま、暫く目を合わせて……。
何も言わずに、ユウは自分の部屋へ戻って行った。
◆
数時間後――
ノックをしてから、レイカとハルカが、笑顔で部屋へ入って来た。
「ユウ、いる~?」
部屋には、ゴードン一人きり。
入り口近くにある、小さなダイニングテーブルに肘をついて。
テーブルに身体を預けるようにして、椅子に座っている。
「アイツ、今リーダーんところ」
「ちぇ~」
レイカはユウの不在に不満いっぱいの顔を見せながら、持って来たクッキーの包みを、ハルカと一緒にテーブルの上へ広げた。
「子供達と一緒に作ったの。ユウさまにも作り立て、食べて欲しかったんだけどな」
「食べよ、食べよ~」
「ハルカも作ったの?」
「うん、みんなで一緒にね。教えながら」
ハルカの手作り……。
ゴードンは、クッキーをひとつ、手に取って……何故か、気持ちが高揚した。
出来立ての、まだ温かいクッキーを、一口頬張ってみる。
……甘ぁい。
ほっこりして、嬉しくなった。
レイカが奥の水場のある一角へ行き、お茶を淹れて来る。
ユウとゴードンの部屋だというのに、勝手知ったる何とやらだ。
「ユウ、大丈夫かな……」
クッキーを食べながら心配するゴードンに、ハルカが相槌を打った。
「ああ……うん……。アレね……」
ポリポリ食べながら、しんみりする二人に、お茶を差し出しながらレイカが疑問を投げ掛ける。
「なにが?」
「ユウ、リーダーに盾突いてたじゃん。料理の邪魔してたし」
「ああ、アレか~」
レイカも椅子に座って、三人でクッキーを囲い、先程の”晴天の稲妻”での、出来事を話し出した。
「レイカ、気が付いてないと思うけど……。レイカの周りに、小さい光の玉が浮いててさ。レイカに飛ばしちゃった卵液、消滅させていたんだよね。
あれ、絶対ユウの仕業だよ。卵液じゃなくて、人だったら、どうなっていたか……」
「レイカに近寄ろうとした、あっちの偉い人。金縛りにしていたよね」
ゴードンとハルカは交互にレイカへ教え、思い出して、溜息をついた。
「えっ、そんな事あったの? だからか~、みんな遠ざかっていて、オカシイと思ったんだ」
自覚は、あったようだ。
「ユウさま、なんかすっごい殺気立ってて、怖かった。あれレイカのせいだよ、きっと」
「ええっ、なんで?」
「さっき話した、小さい光の玉さ……。レイカにだけ、あったんだよ。リーダーに盾突いてた時も『どうしてレイカを連れて来た』って、レイカ名指しだったし」
「最初から、おかしかったよね。集合場所でレイカを見て、動揺してたし。
誰が参加するのか、名前とか、全然聞いてなかったんじゃないのかな」
ゴードンとハルカの話を聞いて、レイカはクッキーを咥えたまま、止まっていた。
そこまでは、気が付いてなかったようだ。
「……レイカの能力の時で、アレだろ~? 命令違反は即刻、死刑か追放じゃんか。今頃ユウ、どうなってんのか、気が気でないよ……」
ゴードンは机に突っ伏して、不安を垂れ流した。
「あっ」
……ヤバイ。
レイカの能力の一件は、能力自体も他言禁止の機密事項だ。
ついうっかり口にしてしまった事を、ゴードンは後悔した。
明らかに焦って、口を塞ぐゴードンに、ハルカは苦笑して言った。
「大丈夫、知っているから。レイカから、こっそり聞いたんだ。レイカの謹慎処分の訳」
「……そうなの?」
「心配しないで。私、口固いから。レイカも私以外、誰にも言ってないし。秘密をひとりで抱え込むのは、良くないでしょ? 相談相手は、いないとね」
――流石、親友だ。
しかし、これでまた、ひとり巻き込まれた。
「レイカ、今はユウさまの声、聞こえないの?」
「こっちで話していると、聞き逃しちゃうんだよね~。普段から、あんまり喋らないし」
あまり役に立たなそうな能力に、感じた。
「とりあえず待つか……」
今回のエピソードは5話構成。
ユウが中心のような、そうでないような……そんなお話です。




