第41話 殺気
翌朝――
任務を受けたユウが集合場所へ行くと、一般からレイカ、ハルカ、ゴードンが、参加していた。
残りニ名は、実動部隊の女の子。
「え……!?」
驚愕の表情をする、ユウ。
「な、なんで……!?」
「先に話した通りだ。ガキ共の防御結界は任せた」
ユウの動揺が半端じゃない。
今回の作戦は、前もって聞いていた通りで、動揺すべき所ではない筈だが。
「早くしろ」
急かされ、ユウは覚悟を決めたように五人へ防御結界を張った。
……傍から見ても、異常な程、強固だ。
二重どころではない。
五重はあるのでは、ないだろうか。
「アホか、やり過ぎだ。そこまでしなくて良い」
呆れ返るリーダーを、ユウは無言で睨み付けた。
総勢五十人弱の”桔梗乙女”全員に、防御結界を張れるユウだ。
五人に五重をかけたところで負担になる筈もない。
特に問題もないので、そのまま出発する事にした。
一般のレイカ、ハルカ、ゴードンには、目隠しがされた。
”外”の世界が見られると期待していたゴードンには、少し残念だったが、仕方がない。
いつも通り”晴天の稲妻”大広間に、突然現れる。
リーダー、親衛隊のシンジとサーラ、精鋭部隊……そして、随伴の料理体験部隊。
「お。来た来た」
おやっさんは、既に慣れたようだ。
しかし今回は、いつもとは違う。
リーダーは「よっ」とか言い、意外とフレンドリーだが、ユウがいつになく殺気立っていた。
おやっさんはリーダーに耳打ちをする。
「ぼ、坊主……どうしたんだ?」
「気にするな、始めてくれ」
用意されていた材料と、作り方レシピを見ながら、手解きが始まった。
しかしユウの殺気が気になって、仕方がない。
後ろで、睨み付けていて……。
いつ殺されるか、判ったものではない。
「何故、レイカを連れて来た」
ユウがリーダーに問いた。
いや……この殺気は、むしろ脅迫だ。
リーダーは不機嫌な顔を見せた。
「俺の決定だ、従え」
二人は睨み合ったまま、膠着状態を表わした。
殺気と殺気のぶつかり合いで、周囲にいる者の方が恐ろしくて、動けない。
ユウは戦場でも、ここまでの殺気を放った事はない。
リーダーも、譲る気はないようだ。
一触即発、状態で――
このまま熾烈な殺し合いでも始まるのかと、誰もがハラハラした。
そこへレイカがツカツカと歩いて行き、持っていたレシピを丸めた紙で、ユウの頭をスパンッと叩いて言った。
「もうっユウ、なに殺気立ってるの! 気になって、料理出来ないでしょ!」
「ほらっ、深呼吸して。吐いて~吸って~、はい、もう一度~」
ユウが落ち着きを取り戻した。
「よしっ! もう邪魔しちゃダメよ、ユウ。しっかり覚えて、美味しいもの、作ってあげるからね!」
ウインクして、レイカは調理場へ戻って行った。
冷めた目でユウを見るリーダーに、少し申し訳なさそうにユウは謝った。
「……ごめん」
リーダーは溜息をついて、ユウの頭を軽く小突いた。
「レ、レイカ……凄いな……」
ゴードンが目をパチクリさせていた。
「なにが?」
「よく、あんな殺気立ったユウを……。あんなユウ、見た事ないぜ」
「だよね、ちょっと吃驚した。ユウもあんな顔、するんだね」
言葉とは裏腹に、鼻歌混じりに準備をするレイカは、あまり気にしていないようだった。
落ち着いたところで、調理実習が始まった。
今回は約束したプリンと、初心者らしく、クッキーに挑戦をする。
「なんだ……全部、菓子か……」
リーダーが、残念そうだ。
親衛隊のシンジとサーラは、苦笑した。




