第4話 裏切り
「ユウを呼べ。あいつに探索させる」
「しかし……」
「良いから呼べ。戦闘部隊、持ち堪えろよ!」
リーダーの指示通りに動く。
地上では、すべての戦闘部隊を投入しても、苦戦をしていた。
敵の設置したリダクションデバイスが、こちらの能力だけを阻害しているせいだ。
ここまでの被害は、今まで一度も無かった程に。
ユウは呼び出しを受け、すぐにリーダーの元へ向かった。
目を閉じ、探索を始める。
このリダクションデバイス稼働中の、探査専用の部隊も役に立たない中での任務――
目を開き、頷く。
「どこだ」
険しい表情のリーダーと親衛隊を連れて、瞬間移動をした。
反ユウ派の大人達が複数いる前に、ユウ達は現れた。
「この人達が、飲み込んでいる」
突然現れた”小さな悪魔”ユウと、修羅のような表情のリーダー、親衛隊二人に、反ユウ派の大人達は驚愕した。
確かにリダクションデバイスは稼働中だ。
なのに何故、瞬間移動で現れた?
何故、装置の位置がバレた?
能力は制限されていて、殆ど使えない筈だ。
「何のつもりだ。どうやって、それを手に入れた」
リーダーは質問と同時に、反ユウ派の者達の思考を詠み取った。
リーダーに隠し事は出来ない。
強力な精神感応で、深層心理まで詠み取られてしまう。
人は質問された時点で、無意識に答えを思い浮かべてしまうものだ。
だが、リダクションデバイスは稼働中だ。
現在、最高レベルになっている筈――
男達はリーダーを侮っていた。
どうせ、得意の”心詠み”は使えないだろう……と。
「ユウが気に入らないからだと? そんな小さな理由で、地下施設内の全員を殺す気だったのか!」
反ユウ派の男達は、蒼褪めた。
この男……リーダーには、リダクションデバイスの効果が効いていない。
いや……能力値が高い為、影響をあまり受けていないのだ。
それはユウも同じだった。
だからこそ、探査能力も、瞬間移動も、問題なく使えたのだ。
男達は、縋り付くようにして叫んだ。
「そ……そこまでするつもりはない! この悪魔さえ、いなくなれば!」
「そんなに目障りか?」
「……へっ、俺達は知っているんだぜ。”英雄”なんて言われているが、そのガキは、ただの人殺しなんだって。
しかも、千人を一度に殺した”悪魔”なんだって事をな……!」
「それがどうした?」
男達は、言葉を失った。
どんな主張も通る事がない修羅の表情のリーダーに、己のした愚かさに気付く。
「あ……あんたは俺達のリーダーだ。リーダーは俺達を守る義務がある! そうだろう?」
必死に、同意を求める。――しかし。
「そんな義務はないな」
冷徹な瞳で見下して、リーダーは続けた。
「俺の命令に従わない奴を、守る義務などない。裏切り者は死……あるのみだ」
「ユウ、お前はどっか行ってろ」
「……ここで良いよ」
これから起こす惨劇を、子供に見せるのを少し躊躇したのか……
リーダーは一声かけたが、ユウは動かなかった。
◆
「片付けておいてくれ」
親衛隊の男性に、リーダーは血の滴った壊れたリダクションデバイスを投げて寄越した。
足元には、物言わぬ躯がリダクションデバイスの数だけ転がっている。
命令を受けた親衛隊の男性は、表情を変えずに「はい」とだけ、返事をした。
地上では、戦闘が続いていた。
先程までより少し楽になったような気がしたが、地上のリダクションデバイスはまだ破壊されていない。
ようやく今しがた、設置場所が判ったばかりだ。
そこへリーダーとユウが参戦する。
『撤退命令。総員、地下施設内へ即時撤退。繰り返す、総員、地下施設内へ即時撤退』
「え?」
激しい戦闘の最中、予期せぬ命令に耳を疑う。
能力を持たない物理攻撃部隊を引き掴み、一斉に瞬間移動で撤収した。
突然、目の前の相手がいなくなり、襲撃していた敵は困惑した。
大勢いた戦闘部隊の代わりに、空中へ浮かぶ二つの人影に気付く――
「あ……あれは……!」
”小さな悪魔”ユウに、気が付いた時……
既に、なにもかもが遅かった。
「やれ」
リーダーの一声と同時に、ユウの衝撃波が炸裂する。
一瞬で、なにもかも全てが吹き飛び……粉微塵にしていった。
リダクションデバイスも、襲撃して来た人間も、すべて――
地下施設の周囲が何もない、まっさらな荒野なのは……
これが初めてでは、なかったからだ。
「いや~ユウ坊、いつもながら凄ぇな!」
「今回ばっかりは死ぬかと思ったぜ!」
能力を持たない、武器で攻撃する物理攻撃部隊の中年達が、帰還したユウの背中をバンバン叩いて労った。
「俺達は”旧世代”だからな。武器しか戦い方はないが、それでも施設内の家族やガキ共を、全力で守るぜ!」
豪快に笑いながら、中年達は去って行った。
ユウはその後姿を見ながら、ほんの少し……微笑んでいた。
昨日、活動報告でちょっと書いたんですが
ReductionDevice「減少装置」という意味で
基本数値-デバイス=使える能力数値、みたいなイメージです。
基本数値が高ければ高い程、影響を受けにくい。低いとゼロになって使えない、みたいな。
マイナスにはなりません。この装置、結構何度も出て来ます。