第32話 良き友
そして、時は合わさる――
ユウ達、精鋭部隊が二団体と同盟を交わし、”桔梗乙女”新居の全システムを回復してから、地下施設へ帰還した。
『精鋭部隊、帰還します』
地下施設内に、アナウンスが入る。
昨日も長時間だったが、今日は、ほぼ丸一日かかっていた。
いつも生の精鋭部隊を見ようと、幼い子供達が待ち構えている通路に、ゴードンもいた。
リーダーを先頭に、精鋭部隊が列になって歩いて来る。
「わぁっ、ユウさま~!」
子供達が走って行った。
ゴードンはそのまま待っていると、リーダーと目が合った。
「あ、あ……あの……っ………」
具合が悪い、ユウを――
そうと知っていながら、過酷な戦場へ連れて行ったリーダーに、文句のひとつでも言おうと憤慨して来たものの……ゴードンは、言葉が出なかった。
――リーダーが、怖い訳じゃない。
確かに怖いが、そうではなく……。
もしかするとユウが具合悪い事も、トップシークレット並に、大勢に知れ渡ったらマズイ事なのでは、ないだろうか……。
そう考えると、言葉が出なかった。
リーダーはゴードンを察したように、ゴードンの頭にぽん、と手を置き、何も言わずに片手を上げて去って行った。
……緊張した。
でも結局、何も言えてない。何も伝えてない。
ゴードンが溜息をついていると、幼い子供達に囲まれたユウがやって来た。
お互い、目を合わせる。
ユウは子供達に別れを告げて、ゴードンと並んで歩き出した。
「……おかえり」
「ただいま」
ユウは微笑んで、ゴードンに応える。
――昨日は、疲れて帰って来て、あの状態だった。
今日は、昨日よりずっと長時間の、ほぼ丸一日だ。
この後、また倒れるんじゃないか……。
……もしかすると、今すぐにでも……。
「今日は戦闘なかったから、そんなに疲れてないよ」
笑顔を向けるユウに、ゴードンはハタと気が付く。
「……っ! ま、また詠んだな~! 詠むなって言ってんだろ~!」
プンスカと怒るゴードンに
「ゴードンは詠みやすいんだよ。言葉が表面意識に出ているから」
と、言いながら笑っていた。
――いつもの光景。
「身体……大丈夫なの?」
和んだところで、ゴードンは聞いてみる。
するとユウは、襟で隠れていたネックレスを引っ張り出して見せた。
「これ、リーダーが作ってくれた”能力制御装置、試作機”。
最近の体調不良の原因は、基本能力値の異常上昇だから、これが抑えてくれる」
「……俺に言って、平気なの? それ……」
「ゴードンは信用している」
……ゴードンは、嬉しくなった。
これも人に話しては、いけない事なのかも知れない。
でも、それを”親友”であるゴードンには、打ち明けてくれた。
この信頼を裏切ってはいけない。
「じゃあ、もう大丈夫なんだ。良かった……」
目の前で倒れるのを何度も見ていて、ゴードンは少し神経質になっていた。
ほっと胸を撫で下ろし、明るい笑顔を見せる。
ユウはそんなゴードンを、微笑んで見ていた。
「リーダーから聞いたよ。ゴードンが泣きついて来たって。一晩中、心配して付いていてくれたって……。ありがとう」
泣きついたとか言われると、ゴードンは急に恥ずかしくなってきた。
「言うなよっ! 誰にも言うなよっ!?」
ゴードンからの”トップシークレット”。
二人は笑いながら、歩いて行った。
「レイカから、自室謹慎の一時解除要請と、その理由に能力コントロールプログラムの受講申請が来ています」
リーダー執務室に戻り、データ整理をしていた親衛隊が、報告をする。
「ほー……」
リーダーは手元の端末を操作しながら、ニヤリと笑った。
「なるほど……そういう事か。許可しろ」
何を見ているのか、親衛隊には一目瞭然だった。
……殆ど覗き見だ。趣味が悪い。
「ゴードンからも申請が……」
「許可しろ」
「良いんですか?」
サーラが訪ねた。
「あのクソガキ、意外と思慮深い。さっき廊下で会った時も、そうだった」
リーダーの端末の画面には、今はユウの部屋が映っている。
二人で他愛のない話をしてるのだろう。
ユウが笑顔を見せていた。
「……良い友達、持ったじゃねぇの」
リーダーは満足気な顔を見せた。




